第11章 忍びの地図【アズカバンの囚人】
「俺なら、俺がペティグリューのチビより先にヤツと対決してたら、杖なんか出さねえぞ。奴を引っこ抜いて、バラバラに八つ裂きに·····」
「ハグリッド、バカを言うもんじゃない」
魔法大臣は息を吐き出しながら、ハグリッドに厳しい声で言う。
するとハグリッドは黙りとなり、蜂蜜酒の入ったジョッキを持ち上げていた。
「魔法警察部隊なら派遣される訓練された『特殊部隊』以外は、追いつめられたブラックに太刀打ちできる者はいなかったろう。私はその時、魔法惨事部の次官だったが、ブラックがあれだけの人間を殺したあとに現場に到着した大一陣の一人だった。私は、あの·····あの光景が忘れられない」
若干、魔法大臣の声が震えているような気がした。
「いまでもときとぎ夢に見る。道の真ん中に深くえぐれたクレーター。その底のほうで下水管に亀裂が入ってた。死体が累々。マグルたちは悲鳴をあげていた。そして、ブラックがそこに仁王立ちになり笑っていた。その前にペティグリューの残骸が·····血だらけのローブとわずかの·····わずかの肉片が」
魔法大臣の声が途切れたのと同時に、鼻をかむ音が聞こえてきた。
「さて、そういうことなんだよ、ロスメルタ。ブラックは魔法警察部隊が20人がかりで連行し、ペティグリューは勲一等マーリン勲章が授与された。哀れなお母上にとってはこれが少しは慰めになったことだろう。ブラックはそれ以来ずっとアズカバンに収監されていた」
「大臣、ブラック派狂ってるというのは本当ですの?」
「そう言いたいがね」
魔法大臣はゆったりとした口調で話し出す。
それを私は震えながら耳を傾けていた。
「『ご主人』が敗北したことで、たしかにしばらくは正気を失っていたと思うね。ペティグリューやあれだけのマグルを殺したというのは、追い詰められて自暴自棄になった男の仕業だ。残忍で·····何の意味もない。しかしだ、先日、私がアズカバンの見回りにいった時、ブラックに会ったんだが、なにしろ、あそこの囚人は大方みんな暗い中に座り込んで、ブツブツ独り言を言ってるし、正気じゃない·····ところがブラックはあまりに正常なので私はショックを受けた」
そこで私は『あれ?』と思った。
アーサーおじさんはシリウス・ブラックが狂っていると言っていた。
だけど魔法大臣はそうじゃないと言わんばかりの言い方。