第11章 忍びの地図【アズカバンの囚人】
バンッと何か机に叩きつけられた音が聞こえた。
「ブラックはあの晩のうちにトンズラしなきゃなんねえってわかってた。魔法省が追っかけてくるのも時間の問題だってヤツは知ってた。もし、俺がハリーとアリアネをヤツに渡してたらどつなってた?えっ?海のど真ん中辺りまで飛んだところで、ハリーをバイクから放り出したにちげぇねぇ。アリアネはその血を利用されて殺されてたかもしれねぇ。親友達の息子と娘をだ!闇の陣営に組した魔法使いにとっちゃ、誰だろうが、なんだろうが、もう関係ねえんだ……」
ハグリッドが話を終えると長い沈黙が流れた。
私はただただ震えていて、唇を噛み締め続けながら体を丸める。
どれぐらい時間が経っただろう。
沈黙を破ったのはマダム・ロスメルタだった。
「でも、逃げおおせなかったわね?魔法省が次の日に追い詰めたわ!」
「あぁ、魔法省だったらよかったのだが!」
魔法大臣が口惜しげに叫ぶ。
「ヤツを見つけたのは我々ではなく、チビのピーター・ペティグリューだった。──ポッター夫妻とフリート夫妻の友人の一人だったが。悲しみで頭がおかしくなったのだろう。たぶんな。ブラックがポッターとフリートの『秘密の守人』だと知っていたペティグリューは、自らブラックを追った」
『ペティグリュー·····ホグワーツにいたころはいつも3人のあとにくっついていたあの太った小さな男の子かしら?』
「ブラックとポッターにフリートを英雄のように崇めていた子だった」
マクゴナガル先生は小さく呟いた。
「能力から言って、あの二人の仲間になりえなかった子です。私、あの子には時に厳しくあたりましたわ。私がいまどんなにそれを──どんなに悔いているか·····」
「ペティグリューは英雄として死んだ。目撃者の証言では、もちろんこのマグルたちの記憶は消しておいたがね。ペティグリューはブラックを追い詰めた。泣きながら『リリーとジェームズとウィリアスにヘレンが。シリウス!よくもそんなことを!』と言ったそうだ。杖を取り出そうとした。まぁ、もちろん、ブラックのほうがはやかった。ペティグリューは木っ端微塵に吹っ飛ばされてしまった」
マクゴナガル先生は鼻をかみ、かすれた声を出した。
「バカな子·····間抜けな子·····どうしようもなく決闘が下手な子でしたわ。魔法省に任せるべきでした……」