第11章 忍びの地図【アズカバンの囚人】
怒りながら歩いていき、アリアネは辺りに教師が居ないのを確認してから木の幹に腰掛けた。
ずっと人がそばに居るせいで、独りになりたかったのである。
「いくらシリウス・ブラックが私を狙っているからって、あんなにぴったりとくっつかなくてもいいじゃない」
ボソボソと呟きながら、アリアネは羊皮紙を取り出してから課題に取り組もうかなと思っていた時だった。
「わふん!」
犬の吠える声がした。
アリアネは驚いて、危うく羊皮紙を取り落としそうになってしまう。
そして慌てて振り返れば、そこには大きな黒犬が座っていた。
「あら……?貴方、ダイアゴン横丁で見た黒犬?」
「わふっ!」
「返事をしたの?賢い子ね」
アリアネは犬に近寄ると頭を撫でてやった。
「それより、貴方、どうやってここに入ってきたの?」
「わふっ!わんっ!」
「ふふ、聞いても答えられないわよね」
クスクスと笑いながら、アリアネはローブのポケットから常備しているお菓子を取り出した。
クラッカーとクッキー、糖蜜ヌガーやチョコレートやら色々入っている。
「小腹が空いた時用なの。先生たちには秘密だけどね。あげるわ」
アリアネはクラッカーとクッキーを1口サイズに砕くと、それを手のひらに載せてから犬に見せた。
すると犬は腹を空かせていたのか、直ぐに食らいつくと食べ始めた。
「お腹空いてたの?」
「わふっ!」
「そうなのね。まだクラッカーとクッキーはあるから、全部食べていいわよ」
尻尾をぶんぶんと振る黒犬にアリアネは微笑みながら頭を撫でてやった。
そしてふと、トレローニーから『死神犬(グリム)』が取り憑いてると聞かされた話を思い出す。
ちらりとクラッカーを食べる黒犬を見てから、『これがグリム?』と笑った。
可愛らしい黒犬だというのに。
「でも、貴方……なんだか懐かしい気分になるわね。私ね、夢の中で黒犬に触れていた記憶を見たのよ。死んだ、母さんと父さんとリーマスがいて……その中で貴方なような黒犬がいたの。ぼんやりとしか夢で見てないから、似ているか分からないけれど、貴方といると何故か懐かしい気分になるわ」
そう呟いていれば、黒犬は『きゅうん』と鼻を鳴らしてアリアネに擦り寄った。
まるで彼女を慰めるかのような仕草で、何度も鼻を鳴らしながら頬に擦り寄る。