第10章 名付け親【アズカバンの囚人】
「さあ、それじゃ」
リーマスは部屋の奥まで私たちを案内した。
そこには先生方が着替え用ローブを入れる箪笥が置かれていて、リーマスがその横に立つ。
すると突然箪笥がわなわなと揺れ始めた。
「心配しなくていい。中にまね妖怪、ボガートが入ってるんだ」
教科書で読んだことがある名前だった。
確か、人が1番怖いと思う姿に変身する質の悪い妖怪だと読んだ時に思ったのを思い出す。
「まね妖怪(ボガート)は暗くて狭いところを好む。洋箪笥、ベットの下の隙間、流しの下の食器棚など。私は1度、大きな柱時計の中に引っかかっているやつに出会ったことがある。ここに居るのは昨日午後に入り込んだやつで、3年生の実習に使いたいからと、先生方にはそのまま放っておいていただきたいと、校長先生にお願いしたんですよ」
にっこりと微笑むリーマスに、他の生徒たちは何処と無く緊張している様子だった。
「それでは、最初の問題てますが、まね妖怪のボガートとはなんでしょう?」
素早くハーマイオニーが手を挙げた。
流石、ハーマイオニーだなと思っていればリーマスは彼女を指さした。
「形態模写妖怪です。私たちが1番怖いと思うのはこれだと判断すると、それに姿を変えることができます」
「私でもそんなにうまく説明出来なかったろう」
ハーマイオニーはほんのりと頬を赤く染めた。
その様子に私は『おや?』となりながらハーマイオニーを見つめる。
「な、なによ」
「ハーマイオニー。貴方、頬が赤いわ」
「ほ、ほ、褒められたから嬉しかったのよ」
ふうんと私は笑いながらもリーマスへと視線を投げた。
「中の暗がりに座り込んでいるまね妖怪は、またわ何の姿にもなっていない。箪笥の戸の外にいる誰かが、何を怖がるのかまだ知らない。まね妖怪は独りぼっちの時にどんな姿をしているのか、誰も知らない。しかし、私が外に出してやると、たちまち、それぞれいが1番怖いと思っているものに姿を変えるはずです」
その言葉に、私は何が怖いんだろうと考えた。
独りぼっちは好きじゃないけれど怖いというわけじゃない。
じゃあ何が怖いんだろうかと思っていれば、1つだけ思い出した。
吸魂鬼。
私はホグワーツ特急で遭遇したあの吸魂鬼がとても恐ろしく感じたのを思い出した。
もしかしたらボガートは、私の目の前に現れたら吸魂鬼に姿を変えるかもしれない。