第10章 名付け親【アズカバンの囚人】
ピーブズはべーッと舌を突き出す。
だけどそれでもリーマスは怒ることはない。
ため息を吐き出してから、ゆっくりとした動作で杖を取り出した。
「この簡単な呪文は役に立つよ。よく見ておきなさい」
リーマスは肩の高さに杖を構えてから、ピーブズへと呪文を唱えた。
「ワディワジ(逆詰め)!」
チューインガムの塊が、まるで弾丸のように鍵穴から取り出してピーブズの鼻の穴に命中する。
するとピーブズは驚いた顔をしたけれど、直ぐにリーマスに悪態をついてから消え失せた。
暫くしてから、皆が歓声を上げた。
「先生、かっこいい」
「ディーン、ありがとう。さあ、行こうか」
皆がリーマスを尊敬の眼差しで見ながら、リーマスを追いかけて歩き出す。
その事が嬉しくて、笑みを浮かべていればロンが私の肩を突く。
「なんで君が嬉しそうなのさ」
「名付け親が褒められて嬉しくない者はいません」
「貴方、本当にルーピン先生が好きなのね」
「それってさ、もしかしてこ……」
「恋とかじゃないわよ。家族愛よ、馬鹿ロン。それだからモテないのよ」
「モテないのは関係ないだろう……!?」
暫くすると、リーマスは職員室のドアの真ん中に立ち止まった。
「さあ、お入り」
リーマスはドアを開けてから1歩下がった。
職員室の中を覗いてみれば、セブが低い肘掛椅子に腰掛けている。
口元には何故か意地悪そうな笑みを浮かべていて、リーマスが最後にドアを閉めて入ると彼に声をかけた。
「ルーピン、開けておいてくれ。吾輩、できれば見たくないのでね」
セブは立ち上がるとマントを翻してから私たちの脇を通り抜けていく。
そしてドアの前でくるりと振り返るとリーマスに言葉を投げかけた。
「ルーピン、たぶん誰も君に忠告していないと思うが、このクラスにはネビル・ロングボトムがいる。この子には難しい課題を与えないようご忠告申し上げておこう。Ms.グレンジャーが耳元でひそひそ指図を与えるなら別だがね」
その言葉にネビルの顔は真っ赤に染まり、ハリーはセブを睨みつけていた。
するとリーマスさ眉根をきゅっと上げる。
「術の最初の段階で、ネビルに僕のアシスタントを務めてもらいたいと思ってましてね。それに、ネビルはきっと、とてもうまくやってくれると思いますよ」
ネビルの顔がもっと赤くなり、セブは気に食わなさそうにドアを閉めて出て行ってしまった。