第10章 名付け親【アズカバンの囚人】
「まーだだ。だけんど、時間の問題だわ、な。マルフォイのことで」
「あいつ、どんな具合?」
私たちは近くにあった椅子に腰掛けた。
するとハグリッドは大きなジョッキを傾けて、中に入っているお酒を飲む。
「マダム・ポンフリーが出来るだけの手当をした。だけど、マルフォイはまだ疼くと言っとる……包帯ぐるぐる巻きで……呻いとる……」
「ふりしてるだけだ」
ハリーが即座にそう言い、私もその通りだと頷いた。
マルフォイの怪我はとっくに治っているはずなのに、疼いているなんてただのふりだ。
だって手当したのはあのマダム・ポンフリーなのだから。
「マダム・ポンフリーなら何でも治せる。去年なんか、僕の片腕の骨を再生させたんだよ。マルフォイは汚い手を使って、怪我を最大限に利用しようとしてるんだ」
「俺からはじめっから飛ばしすぎたって、理事たちが言うとる。ヒッポグリフはもっとあとにすべきだった。……レタス食い虫(フロバーワーム)かなんかったから始めていりゃ……イッチ番の授業にあいつが最高だと思ったんだがな……みんな俺が悪い……」
「ハグリッド、悪いのはハグリッドじゃないわ」
「そうよ。ハグリッド、悪いのはマルフォイのほうよ!」
私とハーマイオニーは落ち込んでいるハグリッドにそう言ってみせた。
「僕たちが証人だ。侮辱したりするとヒッポグリフが攻撃するって、ハグリッドはそう言った。聞いてなかったマルフォイが悪いんだ。ダンブルドアに何が起こったのかちゃんと話すよ」
「そうだよ。ハグリッド、心配しないで。僕たちがついてる」
「だから、そんなに落ち込まないで。私たちがハグリッドは無実だって言ってあげるから」
するとハグリッドは真っ黒な目からポロポロと涙を溢れさせていた。
そして、私たちを抱き寄せると骨が砕けるかと思うぐらいに抱きしめてくる。
私は思わずバンバンとハグリッドの背中を叩くけれど、ハグリッドは離してくれない。
「ハグリッド、もう十分飲んだと思うわ」
ハーマイオニーはそう言うと、テーブルからジョッキを取り上げると外に出て中身を捨ててしまう。
「あぁ、あの子の言うとおりだな」
ハグリッドはやっと私たちを離してくれた。
胸をさすりながら、よろよろと離れてから息を吐き出す。
そしてハグリッドはフラフラしながらも、ハーマイオニーを追いかけるように外に出た。