第10章 名付け親【アズカバンの囚人】
「必ず、ヒッポグリフのほうが先に動くのを待つんだぞ。それが礼儀ってもんだろう。な?こいつのそばまで歩いてゆく。そんでもってお辞儀する。そんで、待つんだ。こいつがお辞儀を返したら、触ってもいいっちゅうこった。もしお辞儀を返さなんだら、素早く離れろ。こいつの鉤爪は痛いからな。よーし。誰が1番乗りだ?」
その言葉に全員が後ずさりした。
美しい生き物だけれど、正直言えば少し怖い気持ちもある。
だけれど誰も名乗り出ずに、ハグリッドは困ったような表情を浮かべていた。
「誰もおらんのか?」
ハグリッドの授業は成功させてあげたい。
その気持ちで私は名乗りをあげることにすれば、ハリーが先に名乗り出た。
「僕、やるよ」
「私もやるわ」
すると、後ろでラベンダーとパーバディが囁く。
「あぁぁー、ダメよ、ハリー、アリアネ。お茶の葉を忘れたの?」
「ただの占いよ、信じる方が馬鹿馬鹿しいわ」
私はそう伝えてからハリーと共に放牧場の柵を乗り越えれば、ハグリッドが嬉しそうにしていた。
「偉いぞ、ハリー、アリアネ。よーし、そんじゃ、ハリーはバックビークとやってみよう。アリアネはベリードとやってみろ」
ハグリッドは鎖を2本解いてから、灰色のヒッポグリフと赤銅色のヒッポグリフを連れてくる。
「さあ、落ち着けよ、ハリー、アリアネ。目を逸らすなよ。なるべく瞬きするな。ヒッポグリフは目をしょぼしょぼさせるやつを信用せんからな……」
私は赤銅色のヒッポグリフ、ベリードを真っ直ぐに見つめる。
オレンジ色の瞳は私を睨みつけているが、それでも真っ直ぐに見つめた。
「そーだ。ハリー、アリアネ、それでええ……それ、お辞儀だ……」
私は深くお辞儀をしてみせる。
だけれどバックビークとベリードは私とハリーを見下ろしていてお辞儀は返してくれない。
駄目だったのだろうかと思っていると、バックビークとベリードは鱗に覆われた前脚を折ってからお辞儀を返してくれた。
「やったぞ、ハリー!アリアネ!よーし、触ってもええぞ!嘴を撫ぜてやれ、ほれ!」
私は恐る恐ると手を伸ばしてから、ベリードの嘴に触れてみせる。
するとベリードは私の手に擦り寄るように嘴を押し付けてきて、私はゆっくりと撫でてやった。
「大人しい子ね……」