第10章 名付け親【アズカバンの囚人】
黒犬ならダイアゴン横丁で見た。
大きくて綺麗な毛並みをしていたなと思い出しながら、私は頷いて見せる。
すると隣にいたハリーも頷いていた。
「ウン、見たよ。ダーズリーのところから逃げたあの夜、見たよ」
「私も見たわ。ダイアゴン横丁で見たわ」
「たぶん野良犬よ」
ハーマイオニーがシチューにパンを浸しながらそう呟いた。
するとロンは驚いた顔をしながらハーマイオニーを見て、声を少しだけ荒らげる。
「ハーマイオニー、ハリーとアリアネが死神犬(グリム)を見たら、それは、それはよくないよ。僕のビリウスおじさんがあれを見たんだ。そしたら、そしたら24時間後に死んじゃったよ!」
「偶然よ!」
「君、自分の言っていることがわかってるのか!死神犬と聞けば、たいがいの魔法使いは震え上がってお先真っ暗なんだぜ!」
「そういうことなのよ。つまり、死神犬を見ると怖くて死んじゃうのよ。死神犬は不吉な予兆じゃなくて、死の原因だわ!ハリーとアリアネはまだ生きてて、ここにいるわ。だってハリーとアリアネはバカじゃないもの。あれを見ても、そうね、つまり『それじゃもう死んだも当然だ』なんてバカなことを考えなかったからよ」
私とハリーの話なのに、何故ロンとハーマイオニーが熱くなるのだろう。
そう思いながら、ハーマイオニーからかぼちゃジュースが入った瓶を受け取ってコップを注いだ。
ハーマイオニーはかぼちゃジュースを飲み干してから、鞄から『数占い学』の教科書を取り出した。
そしてかぼちゃジュースが入ってたグラスに立てかけながら読み始める。
「『占い学』って、とってもいい加減だと思うわ。言わせていただくから、当てずっぽうが多すぎる」
「あのカップの中の死神犬は全然いい加減なんかじゃなかった!」
「ハリーに『羊だ』なんて言った時は、そんなに自信がおありになるようには見えませんでしたけどね」
「トレローニー先生は君にまともなオーラがないって言った!君ったら、たった1つでも、自分がクズに見えることが気に入らないんだ」
どうやら、ロンの言葉にハーマイオニーは図星だったらしい。
顔を真っ赤にさせながら、数占いの教科書をテーブルに叩きつけた。
その勢いに私のかぼちゃジュースが入ったグラスが、危うく転倒するところだったが、他の料理は飛び散ってしまっている。