第10章 名付け親【アズカバンの囚人】
「下がれ、下賎のホラ吹きめ!下がりとろう、悪党め!」
その言葉に私たちは戸惑いながら顔を見合わせた。
どうするべきかと思いながら、もう1度ハリーが騎士へと声をかける。
「あの。僕たち、北塔を探してるんです。道をごぞんちではありませんか?」
「探求であったか!」
さっきまで怒っていたのが嘘のように、騎士は表情を明るくさせてから叫んだ。
「我が朋輩よ、我に続け。求めよさらば見つからん。さもなくば突撃し、勇猛果敢に果てるのみ!」
騎士は太った馬に乗ろうとしたけれど失敗して、一声叫ぶ。
「されば、徒歩あるのみ。紳士、淑女諸君!進め!進め!」
騎士はガチャガチャと派手に音を鳴らしながら走り出すと、額縁の左側に飛び込んで見えなくなる。
私たちは急いで騎士を追いかけて、鎧の音を頼りにしながら廊下を走った。
「各々方ご油断召さるな。最悪の時はいまだ至らず!」
騎士が叫びながらフープスカート姿の婦人達が描かれた前方の絵の中に騎士は姿を現した。
その絵は狭い螺旋階段の壁にかかっていて、私たちは息を切らせながら螺旋階段を上がり始める。
急すぎる螺旋階段は、目眩さえ感じさせていて、私たちの息が螺旋階段の道に響いた。
「疲れた……こんな所があるなんて知らなかったわ」
「どんだけ急なんだよ、この螺旋階段……!」
目眩が酷くなった時、上の方で人の声がした。
どうやらやっとのことで教室に辿り着いたらしい。
「さらばじゃ!」
すると騎士がとある絵の中で叫んだ。
「さらば、わが戦友よ!もしまた汝らが、高貴な魂、鋼鉄の筋肉を必要とすることあらば、カドガン卿を呼ぶがよい」
ヒョイっと騎士は絵から姿を消し、それを見たロンがボソリと呟く。
「そりゃ、お呼びしますとも。誰か変なのが必要になったらね」
最後の階段を登れば、小さな踊り場に出た。
そこには他の生徒たちもいたけれど、全員が困ったようにしている。
踊り場からの出口がどこにもないなと思っていれば、ロンが天井を指さした。
指の先には丸い撥ね扉があって、真鍮の表札がぶら下がっている。
「シビル・トレローニー、『占い学』教授」
「どうやってあそこに行くのかなあ」
「確かに……」
どうやって天井にある教室に行くのだろう。
私たちが首を傾げていれば、まるで私たちの声に答えるように撥ね扉が開いて、銀色の梯子が降りてきた。