第10章 名付け親【アズカバンの囚人】
こめかみがピクッと引き攣くのを感じた。
「あのこわーい吸魂鬼で、ウィーズリー、君も縮み上がったのかい?」
「そろそろいい加減にしなさいよ、マルフォイ」
「どうしたんだい?」
この場に似つかわしくない、穏やかな声が聞こえた。
振り返ればリーマスが穏やか笑みを浮かべながら立っていて、私は思わずローブの中にある杖を取り出そうとしたのを辞める。
するとマルフォイはリーマスを横柄な目付きで見た。
継ぎ接ぎのローブとずっと愛用してきた、ボロボロになってしまっている鞄へと目線を向ける。
「いいえ、何も。えーと、先生」
「マルフォイ……」
その言葉に皮肉が込められているのに気づき、私は杖を掴んで取り出した。
するとマルフォイはギョッとした顔つきになり、走るように逃げ出す。
「こら、アリアネ。君は本当に喧嘩っ早いね……」
「ルーピン先生、アリアネの喧嘩っ早いのは昔からなんですか?」
「ああ、そうだよ。小さい頃から喧嘩っ早くてね……まったく」
リーマスはため息を吐き出しながら私の頭を撫でた。
なんだかすごく小さい子扱いされている気がしたけれど、リーマスに撫でられるのは嫌じゃないので大人しく撫でられる。
「ほら、ここで止まらずに行きなさい。宴に遅れてしまうよ。アリアネは杖を収めなさい」
言われた通りに杖を収めてから、私たちは城の中へと入っていった。
そして大広間へと向かおうとした時、ハリーとハーマイオニーが呼ばれる。
「ポッター!グレンジャー!2人とも私のところにおいでなさい!」
2人を呼んだのはマクゴナガル先生。
宴の前に呼ばれるということは、何かやらかした時ぐらいなのでハリーとハーマイオニーは青白い顔をした。
そして私とロンは次は自分の名前を呼ばれるのじゃないかと、少しビクビクとしてしまう。
「そんな心配そうな顔をしなくてよろしい。ちょっと私の事務室で話があるだけです。ウィーズリー、フリート、あなた達はみんなと行きなさい」
ハリーとハーマイオニーはマクゴナガル先生に連れられて、私たちに背中を見せながら歩いていってしまった。
私とロンは2人を心配しながらも、大広間へと向かえば組み分け儀式の準備がされていて、相変わらず豪勢な食事に幻想的な飾り付けがされている。
「なんで2人が呼ばれたのかな」
「分からないわ。でも大切な話なのかもしれないわね」