第10章 名付け親【アズカバンの囚人】
おばさんの目は少しだけ潤んでいる。
そして直ぐにおばさんは巨大な手提げカバンを取り出すと、サンドイッチを皆に渡していく。
「皆にサンドイッチを作ってきたわ。はい、ロン……いいえ、違いますよ。コンビーフじゃありません……フレッド?フレッドはどこ?さい、あなたのですよ……」
モリーおばさんがサンドイッチを配っている時だった。
アーサーおじさんがそっと近づいてきてから、『ハリー、アリアネ』と名前を呼ぶ。
「ちょっとこっちへおいで」
私とハリーはその場を離れるとアーサーおじさんの元へと駆け寄った。
「君たちが出発する前に、どうしても言っておかなければならないことがある」
きっとシリウス・ブラックの事だろう。
私とハリーは直ぐに勘づいた。
「おじさん、いいんです。僕とアリアネ、もう知っています」
「シリウス・ブラックのことでしょう」
「何故もう知っている?どうしてまた」
おじさんは驚いた顔をしている。
「僕たち、あの、おじさんとおばさんが昨日の夜、話しているのを聞いてしまったんです。僕たち、聞こえてしまったんです」
「盗み聞きして訳じゃないの。でも、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
私とハリーが謝れば、おじさんは何とも言えない表情を浮かべてしまう。
「できることなら、君たちにこんな知らせ方をしたくなかった」
「いいえ、これでよかったんです。本当に。これで、おじさんはファッジ大臣との約束を破らずにすむし、僕たちは何が起こっているのかがわかったんですから」
「そうよ。こう言う知らせ方でも大丈夫よ、おじさん」
「ハリー、アリアネ、きっと怖いだろうね」
「怖くありません」
「怖くないわ」
私とハリーの言葉はほぼ同時だった。
でもアーサーおじさんは信じられないという顔を浮かべていたから、私とハリーは『本当です』と付け加える。
「僕たち、強がってるんじゃありません。でも、真面目に考えて、シリウス・ブラックがヴォルデモートより手強いなんてこと、ありえないでしょう?」
「ヴォルデモートより怖くないわ。だってヴォルデモートより手強い人なんていないもの。ねえ、ハリー」
「そうだね」
そんなふうに笑いあっていれば、アーサーおじさんは感心したように目を丸くさせていた。
少しだけ私たちが『ヴォルデモート』と言ったことにひるんではいたけれど。