第10章 名付け親【アズカバンの囚人】
「それに、取り越し苦労はおやめなさい。クルックシャンクスは私の女子寮で寝るんだし、スキャバーズはあなたの男子寮でしょ。何が問題なの?可哀想なクルックシャンクス。あの魔女が言ってたわ。この子、もうずいぶん長ーいことあの店にいたって。誰も欲しがる人がいなかったんだって」
「そりゃ不思議だね」
皮肉っぽくロンは言いながら、恨めしそうにクルックシャンクスを見ていた。
それから私たち4人は『漏れ鍋』に向かって歩き出す。
『漏れ鍋』では、アーサーおじさんが『日刊預言新聞』を読みながらバーに座っていた。
「ハリー!元気かね?」
「はい。元気です」
アーサーおじさんの新聞には、『シリウス・ブラック』という名前が載っていた。
もう私はその人がどんな罪を犯したのか知っている。
最初は皆、私に見せてくれようとはしなかった。
だけどアーサーおじさんから新聞を奪ってから、『シリウス・ブラック』がマグル等を殺害した極悪犯罪者ということを知った。
(私が夢見た人は、シリアスという名前だったけど……)
その人が同一人物なのかは分からない。
何せ、夢の中のその人は顔が霞んでいてはっきりと顔を見ていたわけじゃない。
落ち窪んだ顔、もつれた長い髪にこけた頬。
だけど何処か懐かしさを感じるその表情が不思議であり、私は『この人を知りたい』とアーサーおじさんたちにお願いした。
でも『絶対にダメ』と言われてしまったのだ。
(調べるのもダメだって……何故かしら)
だけど、お世話になってる人達の言うことを無視することはできなくて、調べたりはしていない。
「それじゃ、ブラックはまだ捕まって無いんですね?」
「ウム。魔法省全員が、通常の任務を返上して、ブラック捜しに努力してきたんだが、まだ吉報がない」
アーサーおじさんは深刻そうな表情を浮かべた。
「僕たちが捕まえたら賞金もらえるのかな?また少しお金がもらえたらいいだろうなあ」
「ロン、バカなことを言うんじゃない。13歳の魔法使いにブラックかま捕まえられるわけがない。ヤツを連れ戻すのは、アズカバンの看守なんだよ。肝に銘じておきなさい」
そう言いながら、アーサーおじさんは私へと視線を向けてきた。
「いいかい、アリアネ。ブラックの事を調べようとしたりしてはいけないよ。絶対にだ」
「分かってるわ、アーサーおじさん」