第10章 名付け親【アズカバンの囚人】
「……あら?」
黒犬はいつの間にか消えていた。
何処に行ったのだろうかと辺りを探すけれど、どこにも黒犬の姿はない。
「消えちゃった」
「スキャバーズ!アリアネ、スキャバーズを捕まえてくれ!」
「え!?」
ロンの叫び声が聞こえたかと思えば、スキャバーズが走って何処かへと行ってしまう。
「スキャバーズ!?」
「待ってよ、スキャバーズ!」
ロンとハリーとの3人で、私たちはスキャバーズを追いかけた。
10分近くあちこち探していれば、やっと『高級クィディッチ用具店』の外にあるゴミ箱の下でスキャバーズが震えているのを見つけた。
「なにがあったのよ」
「ペットショップの猫が、スキャバーズを襲おうとしたんだ。あれはいったいなんだったんだ?」
「巨大な猫か、小さなトラか、どっちかだ」
「ハーマイオニーはどこ?」
「たぶん、ふくろうを買ってるんだろう」
雑踏の中を引き返しながら、私たちは『魔法動物ペットショップ』へと戻った。
もう一度辺りを見渡したけれども、あの黒犬の姿はどこにもない。
もしかしたら飼い主がいて消えてしまったのだろうかと思いながら、店に入ろうとしたらハーマイオニーが出てきた。
「あら、ハーマイオニー」
ハーマイオニーはふくろうを持っていない。
その代わりに両腕には赤猫を抱えていて、それを見た瞬間ロンはギョッとしていた。
「君、あの怪物を買ったのか?」
「この子、素敵でしょう、ね?」
「あら、可愛い子じゃない。ハーマイオニー、猫にしたのね」
「一目見て気に入ったのよ」
ハーマイオニーが抱えている猫は『クルックシャンクス』という名前らしい。
赤みがかったオレンジ色の毛がふわふわしているけれど、顔はちょっとぺちゃんこ。
だけれど可愛いなと思いながら、ハーマイオニーに撫でさせてもらっていた。
「ハーマイオニー、そいつ、危うく僕の頭の皮を剥ぐところだったんだぞ!」
「そんなつもりはなかったのよ、ねえ、クルックシャンクス」
「それに、スキャバーズのことはどうしてくれるんだい?こいつは安静にしてなきゃいけないんだ。そんなのに周りをうろうろされたら安心できないだろう?」
「それで思い出したわ。ロン、あなた『ネズミ栄養ドリンク』を忘れてたわよ」
ハーマイオニーは赤い瓶をロンへと手渡した。