第9章 トム・リドル【秘密の部屋】
さっぱりとわからない。
そう言いたげな顔んしているウィーズリ家の家族のほうに、ダンブルドアは向き直った。
「ヴォルデモート卿が、かつてトム・リドルと呼ばれていたことを知る者は、ほとんどいない。わし自身、50年前、ホグワーツでトムを教えた。卒業後、トムは消えてしまった……遠くへ。そしてあちこちへ旅をした。……闇の魔術にどっぷりと沈み込み、魔法界でもっとも好ましからざる者たちと交わり、危険な変身を何度も経て、ヴォルデモート卿として再び姿を現した時には、昔の面影はまったくなかった。あの聡明でハンサムな男の子、かつてここで首席だった子を、ヴォルデモート卿と結びつけて考える者さ、ほとんどいなかった」
ダンブルドアの言葉を聞き終えたモリーは、狼狽えながら口を開く。
「でも、ジニーが。うちのジニーが、その、その人と、なんの関係が?」
するとジニーがしゃくりを上げながら話し始めた。
「その人の、に、日記なの!あたし、いつもその日記に、か、書いていたの。そしたら、その人が、あたしに今学期中ずっと、返事をくれたの」
「ジニー!パパはとおまえに、何にも教えてなかったというのかい?パパがいつも言ってただろう?脳みそがどこにあるか見えないのに、独りで勝手に考えることが出来るものは信用しちゃいけないって、教えただろう?どうして日記をパパかママに見せなかったの?そんな怪しげなものは、闇の魔術に詰まっていることははっきりしているのに!」
「あたし、し、知らなかった。ママが準備してくれた本の中にこれがあったの。あたし、誰かがそこに置いていって、すっかり忘れてしまったんだろうって、そ、そう思った……」
「Ms.ウィーズリーはすぐに医務室に行きなさい」
ダンブルドアが、ジニーの言葉を遮ってきっぱりと言った。
「過酷な試練じゃったろう。処罰はなし。もっと歳上の、もっと賢い魔法使いでさえ、ヴォルデモート卿に誑かされてきたのじゃ。安静にして、それに、熱い湯気の出るようなココアをマグカップ1杯飲むが良い。わしはいつもそれで元気が出る」
ダンブルドアの言葉に、アリアネはなんだか彼らしいと少しだけ微笑んだ。
「マダム・ポンフリーはまだ起きておる。マンドレイクのジュースをみんなに飲ませたところでな。きっとバジリスクの犠牲者たちが、いまにも目を覚ますじゃろう」