第9章 トム・リドル【秘密の部屋】
その謝罪に、ハリーは笑みを浮かべて首を横に振る。
「僕こそ、ごめんね……アリアネ」
「これで有名なハリー・ポッターとアリアネ・イリアス・フリートもおしまいだ。フリート家は予言の通りに滅びる。たった2人、『秘密の部屋』で、友人にも見捨てられ、愚かにも挑戦した闇の帝王について敗北して。もうすぐ『穢れた血』の恋しい母達の元に戻れるよ、ハリー、アリアネ……、君たちの命を、12年伸ばしただけだっ母親たちに……。しかし、ヴォルデモート卿は結局君の息の根を止めた。そうなることは、君たちにもわかっていたはずだ」
アリアネは涙を溢れさせた。
せっかく助けて貰った命を、今日ここで失うことになることを。
大切な友人を守ることが出来なかったことを悔いながら。
「鳥め、どけ」
突然リドルが声を発した。
アリアネはどうしたのだろうと、ハリーへと視線を向ければ彼の腕にある傷が治っていたのだ。
「……傷が!」
「不死鳥の涙……。そうだ……癒しの力……忘れていた……」
「癒しの力……?」
フォークスは飛び上がると、金色の真紅の輪を描きながら舞っていた。
「しかし、結果は同じだ?むしろこのほうがいい。1対2だ。ハリー・ポッター、アリアネ・イリアス・フリート……3人だけの勝負だ」
「ハリー!」
アリアネがハリーへと駆け寄ると、フォークスが2人の元にあるものを落とした。
それはリドルの黒い日記であり、リドルはそれを見つめて固まる。
「日記……」
そこでアリアネはハッとした。
「ハリー、聞いて」
アリアネはハリーの耳元で囁いた。
「私がトムに攻撃する。だから、そのうちに……」
「……分かった。頼むよ、アリアネ」
「ええ、任せてちょうだい」
ハリーはアリアネの言わんとすることがわかっていた。
そして彼女は立ち上がるとリドルへと杖を向けて、呪文を叫んだ。
「エクスペリアームス(武器よ去れ)!」
「な!?」
バチッという音と共に、リドルが手にしていた杖が弾かれた。
それと同時にハリーはバジリスクの牙を掴んで、日記帳にズブリと突き刺した。
その瞬間、部屋には恐ろしいぐらいの耳をつんざく悲鳴が響きたわる。
日記帳からはインクが激流にように溢れ、ハリーの手を流れ床を染める。
リドルは身を捩り、苦しげに悶えてから消えた。