第9章 トム・リドル【秘密の部屋】
アリアネの目からは大粒の涙が溢れ出す。
急いでハリーの腕に刺さる牙を抜き取ると、ローブの中からハンカチを取り出して血が溢れる腕に巻き付けた。
「急いで、急いで、マダム・ポンフリーのところに……ちが、どくが……ッ」
「そんなことをしたって無駄だよ、アリアネ」
リドルが冷たい声で笑う。
するとフォークスがアリアネの肩に止まった。
「フォークス……ッ」
「フォークス。君は素晴らしかったよ、フォークス。アリアネ、泣かないで……そんなに泣いちゃ、目が痛くなるよ」
「いや……いやよ、助けるから、大丈夫ッ、助けるからッ……」
フォークスが頭をハリーに近づけた。
するとポロポロとフォークスの瞳からは涙が落ちていく。
その事にアリアネが目を見開かせていれば、リドルがこちらへと近づいていた。
「ハリー・ポッター、君は死んだ」
「……トム・リドルッ」
「死んだ。ダンブルドアの鳥にさえそれがわかるらしい。鳥が何をしているか、見えるかい?泣いているよ」
「許さない……許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さないッ!!」
「怒っているのかい?アリアネ。大丈夫だ、すぐに君もハリーの所に送ってあげるさ」
アリアネの瞳には涙が浮かび、同時に憎しみと怒りが宿っていた。
「殺してやる……!」
「どうやって僕を殺すのかい?僕は日記の記憶だというのに!」
「殺す!!インセンディオ(燃えろ)!」
「プロテゴマキシマ(防げ)。感情に任せて呪文を唱えると失敗するよ、アリアネ・イリアス・フリート」
「ヴァンタス(吹き飛べ)!!」
「エクスペリアームス(武器よ去れ)!」
リドルの呪文にアリアネの杖が弾かれた。
「あっ!?」
「さて、ゆっくりと君を殺そう。綺麗な子には綺麗でゆっくりとした死を与えてあげよう」
にっこりとリドルは笑みを深める。
「ハリー・ポッター、僕はここに座ってアリアネと共に君の臨終を見物させてもらおう。ゆっくりやってくれ。僕は急ぎはしない。なに、アリアネは君が死んだらすぐにそちらに送ってあげるよ。寂しくはないさ」
リドルはアリアネに杖を向けながら、ハリーへと声をかけた。
そしてアリアネは死を覚悟しながら、涙を流してハリーへと視線を向ける。
「ハリー……ごめんなさいッ」