第9章 トム・リドル【秘密の部屋】
「わかったね?」
「貴方が……ヴォルデモートなの?」
「ああ、そうだよ」
アリアネは混乱した。
目の前にいる少年が、自身の両親やハリーの両親を殺した仇であるとは思わずに唖然とする。
「この名前はホグワーツ在学中に既に使っていた。もちろん親しい友人にしか明かしていないが。汚らわしいマグルの父親の姓を、僕がいつまでも使うと思うかい?母方の血筋にサラザール・スリザリンその人の血が流れているこの僕が?汚らしい、俗なマグルの名前を、僕が生まれる前に、母が魔女だと言うだけで捨てたヤツの名前を、僕がそのまま使うと思うかい?ハリー、アリアネ、ノーだ僕は自分の名前を自分でつけた。ある日必ずや、魔法界の全てが口にすることを恐れる名前を。その日が来ることを僕は知っていた。僕が世界一偉大な魔法使いになるその日が!」
偉大なんかではない。
ただ、魔法界を恐怖に陥れて多くの魔法使いを殺して、ハリーの両親を殺してアリアネの両親を殺した。
こんな少年が、大人になると大切な物を奪っていく憎き仇になるのだ。
(偉大なんかじゃない、最悪な魔法使いよ)
アリアネは唇を噛み締めた。
目の前にいるいつかヴォルデモートになる少年を睨みつけながら。
「違うな」
「何が?」
「君は世界一偉大な魔法使いじゃない」
ハリーは息を荒らげながら言った。
「君をがっかりさせて気の毒だけど、世界一偉大な魔法使いはアルバス・ダンブルドアだ。みんながそう言っている。君が強大だった時でさえ、ホグワーツを乗っ取ることはおろか、手出さえ出来なかった。ダンブルドアは、君が在学中は君のことをお見通しだったし、君がどこに隠れていようと、未だに君はダンブルドアを恐れてる」
ハリーの言葉に、リドルの深い笑みが消え去る。
その代わり彼の顔には醜悪なものが宿り始めた。
「ダンブルドアは僕の記憶にすぎないものによって追放され、この城からいなくなった!」
「ダンブルドアは、君の思っているほど、遠くに行ってはいないぞ!」
「ええ、そうよ。ダンブルドアは近くにいるわ、貴方が思っているより近くに」
2人の言葉は咄嗟の思いついた言葉だった。
そうあってほしいという願いでもあり、2人はダンブルドアが近くにいてほしいと願っていた。
リドルは口を開いたが顔を凍りつかせていた。
どこからともなく、音楽が聞こえてきたのだ。