第9章 トム・リドル【秘密の部屋】
「杖が無いわ……」
「君、知らないかな、僕とアリアネの……」
2人はリドルへと視線を投げた。
トムは2人の杖をくるくるともてあそんでいる。
「ありがとう」
ハリーが杖へと手を伸ばすが、リドルは渡そうとしない。
口元に弧を描きながら未だに杖を弄んでいて、くるくると回し続けていた。
「聞いているのか」
「トム、杖を渡してちょうだい……!」
「ここを出なきゃいけないんだよ!もしもバジリスクが来たら……」
「呼ばれるまでは来やしない」
「え?」
「何だって?さあ、杖をよこしてよ。必要になるかもしれないんだ」
リドルはさらに笑みを深くさせた。
「君たちには必要にはならないよ」
「どういうことなの?」
「必要にはならないって?」
「僕はこの時をずっと待っていたんだ。ハリー・ポッター、アリアネ・イリアス・フリート。君たちに会えるチャンスをね。君たちと話すのをね」
アリアネはざわりと嫌な風が頬を撫でるのを感じた。
胸騒ぎがすると思いながら、ハリーを見れば彼は苛立ったように声を荒らげる。
「いい加減にしてくれ。君には分かっていないようだ。いま、僕たちは『秘密の部屋』の中にいるんだよ。話ならあとでできる」
「いま、話すんだよ」
「……そんなに、話がしたいの?私たちと」
「ああ、そうだよ。アリアネ」
リドルは笑みを浮かべながら、ハリーとアリアネの杖をポケットにおさめた。
「ジニーはどうしてこんなふうになったの?」
「貴方、何か知ってるんじゃないの。この子に何が起きているのか……そうでしょう?」
「そう、それは面白い質問だ。しかし話せば長くなる。ジニー・ウィーズリーがこんなふうになった本当の原因は、誰なのかわからない目に見えない人物に心を開き、自分の秘密を洗いざらい打ち明けたことだ」
「言っていることがわからないけど?」
2人はリドルの言葉に戸惑っていた。
するとリドルは笑みを浮かべながらも、2人に説明を始める。
「あの日記は、僕の日記だ。ジニーのおチビさんは何ヶ月もの間、その日記にバカバカしい心配事や悩みを書き続けた。兄さんたちがからかう、お下がりの本やローブで学校に行かなきゃならない、アリアネの容姿が羨ましい、それに、有名な、素敵な、偉大なハリー・ポッターが、自分のかとを好いてくれることは絶対にないだろうとか……」