第9章 トム・リドル【秘密の部屋】
ーthird person singularー
アリアネは一足先に手洗い台に近寄り、ハリーとロンも駆け寄ってくる。
一見は普通の手洗い台だが、何か隠されているのではないかと3人は隅々と調べた。
「ハリー、ロン!」
アリアネが叫びながら、とある場所を指さしていた。
銅製の蛇口の脇のところに引っ掻いたような小さな蛇が掘ってある。
「蛇が掘ってあるのよ」
「……蛇」
ハリーが蛇口をひねるが水は出ない。
その代わりマートルは機嫌良さげに喋った。
「その蛇口、壊れっぱなしよ」
「ハリー、アリアネ。何か言ってみろよ。何かを蛇語で」
「蛇語で……?」
「でも……」
2人は喋れと言われてみても喋る事が出来ない。
本当の蛇に向かって無意識に喋っていたから、喋ろうとして喋れるのだろうかと2人は悩んだ。
だがやってみなければと、アリアネとハリーは本物の蛇がいると思って喋ってみた。
「「開け」」
ちらりと2人はロンへと視線を向けたが、彼は首を横に振るだけ。
「普通の言葉だよ」
「……もっと、本物だって思わなきゃ駄目ね」
「そうだね。これは本物の蛇だ、蛇……」
2人はそれが本物の蛇だと思い込んだ。
そしてまた、言葉を口にする。
「「開け」」
その言葉は人間の言葉ではなかった。
奇妙な蛇の声のような『シューシュー』という音。
その時、蛇口が眩い光を放ちながら回り始めたかと思えば手洗い台が動き始める。
手洗い台が沈み、消え去ると太いパイプが剥き出しになる。
大人が1人滑り込める太さだ。
「これが、『秘密の部屋』の入口……」
アリアネとハリーとロンは息を飲んだ。
「僕はここを降りていく」
「私も行くわ」
「僕も行く」
ちらりとアリアネはロックハートへと視線を向けた。
恐怖で顔は吊り上げていて、蒼白となっている彼は逃げ腰で3人に話しかける。
「さて、私はほとんど必要ないようですね。私はこれで……」
ロックハートはトイレの出入口のドアノブに手をかけたが、ロンとハリーにアリアネの3人が同時に彼に杖を向ける。
「先に降りるんだ」
ロンが凄むと、ロックハートは顔面蒼白になりながらパイプに近づく。
「君たち。ねえ、君たち、それが何の役に立つというんだね?」