第7章 穢れた血に壁の文字【秘密の部屋】
声をかけるとロンがいない。
辺りを見渡せばロンは端の方にいて、逃げ出したそうにしている。
そんなロンにアリアネは苦笑を浮かべた。
「ロンは蜘蛛が嫌いなのよ」
「そうなのかい?」
「嫌いじゃなくて、好きじゃないんだよ」
「同じことでしょう」
「まあ、知らなかったわ、ロンが蜘蛛が嫌いだなんて。蜘蛛なんて『魔法薬』で何回も使ったじゃない……」
ハーマイオニーは驚いたように言うが、ロンは嫌そうに蜘蛛がいる方を見ないようにしていた。
「死んだやつならかまわないんだ。あいらの動き方がいやなんだ……」
そんなロンをハーマイオニーとアリアネはくすくすと笑ってしまう。
「何がおかしいんだよ。わけが知りたいなら言うけど、僕が3つの時、フレッドのおもちゃの箒の柄を折ったんで、あいつったら僕の、僕のテディ・ベアをバカでかい大蜘蛛に変えちゃったんだ。考えてもみろよ。いやだぜ。熊のぬいぐるみを抱いている時に、急に脚がニョキニョキ生えてきて、そして……」
「これを私はずっと聞かされてたのよ。どんなに蜘蛛が嫌なのかってね……」
ハーマイオニーは少しだけアリアネに同情した。
「ねえ、床の水溜まりのこと、覚えてる?あれ、どっから来た水なんだろう。誰かが拭き取っちゃったけど」
「このあたりだった。このドアのところだった」
ロンはフィルチが置いていた椅子から数歩離れているところで指差す。
そして扉の前に立つと手を伸ばしたけれど、直ぐに手を引っ込めてしまった。
何せ目の前にある扉は女子トイレなのだから。
「どうしたの?」
「ここは入れない。女子トイレだ」
「あら、ロン。中には誰もいないわよ」
「そうね、誰も使っていないから平気よ。ロン」
女子2人は怒ることなくそう言う。
何せこのトイレには『嘆きのマートル』という死んだ女子生徒の幽霊がいる場所だから誰も使いたがらないのだ。
「そこ、『嘆きのマートル』の場所だもの。いらっしゃらい。覗いてみましょう」
「誰も使わないんだから、入っても平気よ。バレたら色々言われるかもしれないけれど、私たちがいるから平気よ。多分ね」
「多分ってなんだよ、アリアネ」
故障中と書かれたプレートを無視して、ハーマイオニーが扉を開けた。
トイレの中は陰気で憂鬱な雰囲気が漂っていて、誰も使いだからないのがよくわかる場所。