第5章 二つの顔をもつ男【賢者の石】
「いや、『石』でなくて、ハリー、大切なのは君じゃよ·····君があそこまで頑張ったことで危うく死ぬところだった。一瞬、もうだめかと、わしは肝を冷やしたよ。『石』じゃがの、あれはもう壊してしまった」
「壊した?」
「え?『賢者の石』、壊してしまったんですか!?」
賢者の石はあれだけ守られていたのに、壊してしまったなんて驚いてしまう。
それに賢者の石は、ダンブルドアの親友であるニコラス・フラメルのもの。
「でも、先生のお友達·····ニコラス・フラメルは·····」
「ニコラスさんの、いいんですか?」
「おお、ニコラスを知っているのかい?」
ダンブルドアは嬉しげに笑った。
「君たちはずいぶんきちんと調べて、あのことに取り込んだんだね。わしはニコラスとおしゃべりしてな、こうするのが1番いいということになったんじゃ」
「でも、それじゃニコラスご夫妻は死んでしまうんじゃありませんか?」
「あの2人は、身辺をきちんと整理するのに十分な命の水を蓄えておる。それから、そうじゃ、2人は死ぬじゃろう」
「死ぬ·····」
私とハリーはダンブルドアの言葉に驚いてしまった。
そんな簡単に『死ぬ』と言えるなんてと思っていれば、ダンブルドアは優しく微笑みながら話してくれる。
「君たちのように若い者にはわからんじゃろうが、ニコラスとペレネレにとって、死とは長い1日の終わりに眠りにつくようなものだ。結局、きちんと整理された心を持つ者にとって、死は次の大いなる冒険にすぎないのじゃ。よいか、『石』はそんなすばらしいものではないのじゃ。欲しいだけのお金と命だなんて!大方の人間が何よりもまずこの2つを選んでしまうじゃろう·····こまったことに、どういうわけか人間は、自らにとって最悪のものを欲しがるクセがあるようじゃ」
ダンブルドアは鼻歌を歌っていた。
石を欲しがるのは最悪ものを欲しがるようなものということなのだろうか。
そう思いながらダンブルドアを見上げる。
「先生、ずーっと考えていたことなんですが·····先生、『石』がなくなってしまっても、ヴォル·····あの『例のあの人』が·····」
「ハリー、ヴォルデモートと呼びなさい。ものには必ず適切な名前を使いなさい。名前を恐れていると、そのもの自身に対する恐れも大きくなる」