第5章 二つの顔をもつ男【賢者の石】
私はもぞっと身体を動かした。
クィレルが私の方を見ていない間に、縄を解こうと手を動かしたけれど解けない。
結び目が固くて指ではなかなか解けなかった。
(指が駄目なら·····)
私はローブの袖を揺らした。
袖からは杖が出てきて、私はそれを何とか手にしてから小さく呪文を唱える。
すると、固く結ばれていた縄が解けた。
(これで、隙をついてクィレルを攻撃できたら·····)
攻撃できたらいい。
でも気付かれた本当に殺されてしまうかもしれない·····と冷や汗が浮かんでいた。
「『石』が見える·····ご主人様にそれを差し出しているのが見える·····でもいったい石はどこだ?」
「でもスネイプは僕のことを、ずーっと憎んでた」
「ああ、そうだ。まったくそのとおりだ。お前の父親と彼はホグワーツの同窓だった。知らなかったか?互いに毛嫌いしていた。だがおまえを殺そうなんて思わないさ」
毛嫌いしていたから、私にハリーに近寄らないように言っていたのだろうか。
そう思いながら私はクィレルに攻撃するタイミングを測っていた。
「でも二、三日前、あなたが泣いているのを聞きました·····スネイプが脅しているんだと思ってた」
ハリーがチラリと私を見た。
私はゆっくりとハリーに近づくと、耳元で小さく囁く。
「クィレルが見ていないうちに、なんとか攻撃して失神させてみる·····。だからハリーは、クィレルに話しかけていて。失敗したら、その時はハリーだけでも逃げて」
「そんなことっ·····」
その瞬間、クィレルの顔がこちらに少しだけ向いて私たちは口を閉ざした。
「時には、ご主人様の命令に従うのが難しいこともある·····あの方は偉大な魔法使いだし、私は弱い·····」
「それじゃ、あの教室で、あなたは『あの人』と一緒にいたんですか?」
「私の行くところ、どこにでもあの方がいらっしゃる」
クィレルはどこか怯えたように呟いていた。
「世界旅行をしている時、あの方に初めて出会った。当時私は愚かな若輩だったし、善悪についてばかげた考えしか持っていなかった。ヴォルデモート卿は私がいかに誤っているかを教えてくださった。善と悪が存在するのではなく、力と、力を求めるには弱すぎる者とが存在するだけなのだと·····それ以来、私はあの方の忠実な下僕になった」