第5章 二つの顔をもつ男【賢者の石】
薬が流れた喉は、氷を飲み込んだように冷たい。
不味くはないけれどこれがなんだか、嫌か感覚だなあと思いながら笑う。
「それにね、ハリーを1人だけで行かせるつもりはないわ」
「でも!もしヴォルデモートがいたら!」
「あら、ハリー。ハリーだけが幸運じゃないのよ?私だってヴォルデモートから助かっているのだから。私も大丈夫よ」
ウィンクをすれば、ハリーは大きくため息を吐いていた。
するとハーマイオニーは私へと駆け寄ってから、私にも抱きついてくる。
彼女のふわふわした髪の毛が鼻に触れて擽ったくて、ついつい笑ってしまった。
「貴方も勇敢で、偉大な魔女よアリアネ!」
「ありがとう、ハーマイオニー」
「仕方ない·····アリアネと一緒に行くよ。ハーマイオニー、さあ、急いで。効き目が切れないうちに」
「二人とも幸運を祈ってるわ。気をつけてね」
「はやく!」
ハーマイオニーは踵を返してから紫の炎を潜り、扉を開けて戻って行った。
それを眺めていれば、隣にいたハリーも小さな瓶の薬を一気に飲んでから私を見てくる。
「行こう、アリアネ」
「ええ、行きましょう」
私たちは歩き始めて、黒い炎の中を進んだ。
炎は私たちの肌を撫でるけれど、全く熱くなくて、薬のおかげなのが直ぐにわかる。
しばらくは黒い炎が私たちの視界を覆っていた。
やがて、とうとう炎が消えて向こう側にたどり着くとそこは最後の部屋みたいだった。
「誰かいる·····」
「·····嘘でしょう」
すでに誰かいた。
でもそこに居たのは、ヴォルデモートでもなければセブでもない男。
「クィレル!?」
「あなたが!」
そこに居たのはクィレルだった。
まさかの人物の姿に、私とハリーは息を飲んでしまう。
クィレルは何時のオドオドした表情や、痙攣なんてしていない。
「私だ。ポッター、フリート、君たちにここで会えるかもしれないと思っていたよ」
「でも、僕たちは·····スネイプだとばかり·····」
「セブルスが?」
クィレルは笑っていた。
何時もの笑いじゃなくて、鋭くてすごく冷たい笑い方。
「たしかに、セブルスはまさにそんなタイプに見える。彼が育ちすぎたコウモリみたいに飛び回ってくれたのがとても役に立った。スネイプのそばにいれば、誰だって、か、かわいそうな、ど、どもりの、クィレル先生を疑いやしないだろう?」