第5章 二つの顔をもつ男【賢者の石】
警戒しながら進むと、突然真っ暗だった空間に光が溢れて明るくなる。
そして目の前には大きなチェス盤があり、私たちは目を見開かせて驚いた。
「チェス盤?しかも、大きな·····」
私たちは黒い駒の傍に立っていて、チェスは私たちより遥かに大きい。
そして部屋の向こう側には白い駒もあるけれど、全部のっぺらぼうなのだ。
「さあ、どうしたらいいんだろう」
「見ればわかるよ。向こうに行くにはチェスをしなくちゃ」
「チェスをしなければ、白い駒の向こう側にある扉には行けないって事ね·····」
「どうやるの?」
「たぶん、僕たちがチェスの駒にならなくちゃいけないんだ」
ロンはそう話しながらも、黒のナイトに近づき手で触れた。
すると驚くことに、まるで命が吹き込まれたかのようにナイトの馬が蹄で地面を叩いたのだ。
そして兜を被っているナイトがロンを見下ろしている。
「僕たち·····あの·····むこうに行くにはチェスに参加しなくちゃいけませんか?」
ナイトは頷いて見せた。
どうやっても、チェスをしないと駄目らしい。
「ちょっと考えさせて」
ロンは考える素振りをみせる。
そして、何かを思いつくと私たちの方へと視線を送った。
「僕たち4人がひとつずつ黒い駒の役目をしなくちゃいけないんだ。気を悪くしないでくれよ。でも3人ともチェスはあまり上手じゃないから·····」
「気を悪くなんかするもんか。何をしたらいいのか言ってくれ」
「指示を出してちょうだい、ロン。私たちはそれに従うから」
「わかった。じゃ、ハリー。君はビショップとかわって。ハーマイオニーはその隣でルークの代わりをするんだ。アリアネはクイーンを頼むよ」
「ロンは?」
「僕はナイトになるよ」
チェスはロンの言葉を聞いていたようで、黒のナイトとビショップとクイーンは白い駒に背を向けてからチェス盤を降りていった。
魔法が掛けられているのだろうけれど、凄いなあと感心してしまう。
そして、私たちは譲られた場所にそれぞれ立つ。
すると『白駒が先手なんだ』とロンが呟くので、向こう側を見れば白駒が動き出していた。
ロンはそれを見てから黒駒に動きの指示をだしていき、駒はロンの指示通りに動いていく。
「ハリー、斜め右に4つ進んで」
チェスをするなんて簡単。
そう思っていたのが間違いだった。