第5章 二つの顔をもつ男【賢者の石】
「ハーマイオニー、アリアネ。君たちが薬草学をちゃんと勉強してくれていてよかったよ」
「ほんとだ。それにこんな危険な状態で、ハリーが冷静でよかったよ·····それにしても、ハーマイオニーの『薪がないわ』なんて、まったく·····」
「焦っていたのよ、ハーマイオニーも」
焦っていると自分でも何を言っているのか分からない時もあれば、おかしな考えになる時もある。
2人が危なかったからハーマイオニーも焦っていたし、私も焦っていたから『悪魔の罠』の対処法が分からなかった。
「こっちだ」
ハリーが奥に続く一本道を指さす。
足音と私たちの息する音以外に聞こえるのは、壁からつたい落ちている水滴の音だけ。
暗さと湿った空気がなんとも言えない不気味さを醸し出している。
すると、前の方から何か擦れ合う様な音が聞こえてきた。
「何か聞こえてこないか?」
「擦れているような、音がするわ·····」
「ゴーストかな?」
「わからない·····羽の音みたいに聞こえるけど」
「前の方に光が見える·····何か動いている」
音に警戒しながらも、通路の出口を出る。
すると目の前には輝いている眩い部屋が広がっていて、天井はアーチの形をしていた。
まるで宝石のようにキラキラと光る小鳥が、部屋いっぱいに飛び回ってもいる。
鳥たちに目を見開かせていれば、部屋の向こうに分厚い木の扉があるのに気がついた。
「見て、扉があるわ」
「本当だ。でも、僕たちが部屋を横切ったら鳥が襲ってくるんだろうか?」
「たぶんね。そんなに獰猛には見えないけど、もし全部いっぺんに飛びかかってきたら·····でも、他に手段はない·····僕は走るよ」
ハリーは大きく息を吸うと、腕を顔で覆いながら走り出した。
だけど鳥たちはハリーを襲うことなく、まだ部屋の上の方を飛び回っているだけ。
「行きましょう、ロン、ハーマイオニー」
そして私たちも走り出して、扉まで来た。
だけどハリーが扉を開けようとしても開かずに、次は4人で押したり引いたりとするけれど開かない。
ハーマイオニーが『アロホモラ』と呪文を唱えるけれど、扉はやっぱり開かなかった。
「開かないわね·····」
「どうする?」
「鳥よ·····鳥はただ飾りでここにいるんじゃないはずだわ」
「もしかして、何か扉を開けることに関係してるのかしら·····?」