第5章 二つの顔をもつ男【賢者の石】
ハグリッドはそうつぶやきながらも、豆のさやを剥き続ける。
「『ホッグズ・ヘッド』なんてとこにゃ……村のパブだからな、おかしなやつがウヨウヨしてる。もしかしたらドラゴン売人だったかもしれん。そうじゃろ?顔も見んかったよ。フードすっぽり被ったままだったし」
へたり……とハリーはその場に座り込んでしまった。
「ハグリッド。その人とどんな話をしたの?ホグワーツのこと、何か話した?」
「話したかもしれん」
ハグリッドは顔を顰めながらも、パブでの事を思い出そうとしていた。
「うん……俺が何をしているのかって聞いたんで、森番をしているって言ったな……そしたらどんな動物を飼ってるかって聞いてきたんで……それに答えて……それで、ほんとはずーっとドラゴンが欲しかったって言ったな……それから……あんまり覚えとらん。なにせ次々酒をおごってくれるんで……」
私は自身の体から血の気が引いていくのが分かった。
同時に、ハリーがあの時何を焦っていて何故へたりこんだのかも分かり、私もへたりこみそうになる。
ハグリッドはお酒を飲まされて、話してしまったはず。
ホグワーツのことや、もしかしたらフラッフィーのこともまで。
「そうさなあ……うん、それからドラゴンの卵を持ってるけどトランプで卵を賭けてもいいってな……でもちゃんと飼えなきゃだめだって、どこにでもくれてやるわけにはいかないって……だから言ってやったよ。フラッフィーに比べりゃ、ドラゴンなんか楽なもんだって……」
「それで、そ、その人はフラッフィーに興味あるみたいだった?」
「そりゃそうだ……三頭犬なんて、たとえホグワーツだって、そんなに何匹もいねえだろう?だから俺は言ってやったよ。フラッフィーなんか、なだめ方さえ知ってれば、お茶の子さいさいだって。ちょいと音楽を聞かせればすぐねんねしちまうって……」
私たちは目を見開かせた。
ハグリッドはパブで出会った人に、フラッフィーのなだめ方を教えてしまっていたのだ。
そしてハグリッドは、私たちにフラッフィーのなだめ方を教えたことに気づいて、しまったという顔になる。
「おまえたちに話しちゃいけんかったんだ!」
その瞬間、私たちは歩き出していた。
背後からはハグリッドの焦った声が聞こえてくる。
「忘れてくれ!おーい、みんなどこに行くんだ?」