第3章 不思議なみぞの鏡【賢者の石】
「わしはマントがなくても透明になれるのでな。それで、この『みぞの鏡』はわしたちに何を見せてくれると思うかね?」
私とハリーは考えてみる。
だけど、何を見せてくれるのか分からずに揃って首を横に振った。
「じゃあヒントをあげよう。この世で一番幸せな人には、この鏡は普通の鏡になる。その人が鏡を見ると、そのまんまの姿が映るんじゃ。これで何かわかったね」
「·····私たちが欲しいもの?」
「なにか欲しいものを見せてくれる·····なんでも自分の欲しいものを·····」
「当たりでもあるし、はずれでもある?」
「違うんですか·····?」
キョトンとしながら、私はダンブルドアから鏡へと視線を向けた。
この鏡には私が望んだ、欲しい光景が映っているのに。
「鏡が見せてくれるのは、心の一番奥底にある一番強い『のぞみ』じゃ。それ以上でもそれ以外でもない。ハリーとアリアネは家族を知らないから、家族に囲まれた自分を見る。ロナルド・ウィーズリーはいつも兄弟の陰で霞んでいるから、兄弟の誰よりもすばらしい自分が一人で堂々と立っているのが見える」
「·····家族を知らない·····?」
「アリアネ、君は本当の家族を知らんじゃろう?ウィーズリー家を家族のように思っていても、本当の家族じゃないと何処かで思っている。だから、本当の家族である両親の姿が見えたのじゃ」
ダンブルドアの言葉が、心にすとんと落ちた気がした。
確かに彼の言うとおりであり、私はウィーズリー家を家族のように思っているけれど『本当の家族じゃない』と思っている。
そして血の繋がった家族といれる事を羨んでいた。
何処か納得した気がした。
そう思いながら、鏡に映る私の両親を眺める。
「しかしこの鏡は知識や真実を示してくれるものではない。鏡が映すものが現実のものか、はたして可能なものなのか判断できず、みんな鏡の前でへとへとになったり、鏡に映る姿に魅入られてしまったり、発狂したりしたんじゃよ。ハリー、アリアネ、この鏡は明日よそに移す。もうこの鏡を探していけないよ。たとえ再びこの鏡に出会うことがあっても、もう大丈夫じゃろう。夢に耽ったり、生きることを忘れてしまうのはよくない。それをよく覚えておきなさい。さぁて、そのすばらしいマントを着て、ベッドに戻ってはいかがかな」