第1章 優しい人
「本当にこれでいいのかい?」
「はい!大丈夫です!」
ご主人が心配するのも無理はない。
だって、私の目の前には一輪車に山積みになった小豆の袋たち。
小さめの袋だけど、20袋はある。
「減らした方が…」と気遣ってくれたのだけれど、和菓子で小豆は結構使う重要なものだ。
それに、正直これで明日足りるか分からない。
だって沢山食べる人が増えたから!
けれどおそらくこれが私の運べる限界の数のような気がする。
なので増やすのは勿論無理だし、減らす事も出来ないのだ。
「嬢ちゃんがそう言うなら仕方ないがなぁ…。分かった、頑張れよ!」
「足りなかったらまたいつでもおいでね」
あぁ、涙出そう…
自分を奮い立たせるため「がんばります!」と元気に返事をして、優しいご夫妻に見送られながら私はお店を出発した。
来る時よりもふらふらとしてはいるけれど、もう気合いでなんとかするしかない。
一輪車の持ち手をぎゅっと握り、大事な小豆を落っことさないように慎重に押していった。
まだ夕暮れではないけれど、お日様がだいぶ傾いてきた。
やっと半分くらいまで来たかな。
なるべくふらふらしないように、手と腕に力をいっぱい込め過ぎて、もう痛くて堪らない。
でもこれが無いと明日皆が困ってしまう。
早くこれをお店に届けなければ…
その一心で、ひたすらにここまで進んできた。
後もう少し、がんばろう。
最後の力を振り絞り、握る拳に力を込める。
一歩ずつ進める足にも踏ん張れるように力を入れた。
その時…
ーーブツンッ
足元からした鈍い音
右足の親指と人差し指の間の圧がなくなって
グッと足が前にズレた感覚
予期せぬ出来事に一瞬そちらに気を取られ
込めていた腕の力を抜いてしまった
気付いた時にはもう…
「ぅわっ……!」
言う事をきかなくなった一輪車はどんどん傾いていく
私はもうそれに着いていくしかなくなって…
ついに私は
一輪車諸共倒れ込んでしまった。