第1章 優しい人
地味に…痛い!
持ち手を握りしめていたため手が出せずに、そのまま横に倒れてしまったので、手首から肘までガァーッと擦ってしまった。
袖で隠れているけれど、布が擦れると痛いのだ。
でも今は、それどころではなく…
さっき倒れた時に、ざぁー…っという音が聞こえた。
何か砂のようなものが流れて行くような音が。
嫌な予感がして、恐る恐る辺りを見回すと…
見るも無惨な光景だった。
倒れた拍子に地面に叩きつけられた小豆の袋がいくつか破け、中から小豆が溢れ出してしまっている。
飛び散ってしまった物もあった。
やってしまった…
その場にいた周りの人が何人か来てくれて、倒れた一輪車を起こしてくれたり、知らないおばちゃんが「これあげるから使いな」と、溢れた小豆を入れる為のざるを譲ってくれたりした。
でもそれらの人は皆ここの通りのお店の人で、多分お店が忙しいからか直ぐに戻って行ってしまった。
一人残されてしまって一瞬呆けてしまったけれど、こんな事してる場合じゃないと、すぐに作業に取り掛かる。
五袋破けてしまった。
でも残りは無事なようだ。
全部じゃなくて良かった。
とりあえず散らばった小豆を拾わないと。
知らないおばちゃんにいただいたざるへ地面に落ちた小豆を両手ですくって入れていく。
さっきのどこの店のおばちゃんかしら。
後でお礼言わないとな…
「何をやっているんだあいつは」と、道行く人がちらちらとこちらを窺う視線が突き刺さる。
惨めだなぁ…
でもそれ以上に、小豆のお店のご夫婦に謝りたい。
減らした方がいいと心配してくれたのに…
こんな勿体無い事してごめんなさい。
じわっと涙が溢れた。
ゴシゴシとそれを袖で拭いながら、一人小豆を拾い続けた。
どのくらい経ったのか。
ふと、私の前に影が落ちた。
誰かいるな。
冷やかしか…なんて思いながら、ゆっくりと顔を上げると…
影の主と目が合った。
男の人だ。
左右非対称の柄の珍しい羽織を着ていた。
その人は私の前に仁王立ちしており、スンとした顔で私を見下ろしている。
…どういう気持ちの顔ですか?それ…