第1章 優しい人
皆動き始めたので私も一輪車の持ち手を握りる。
すると私の後ろの方で何やら人を呼ぶ声が。
振り返ると、葉月ちゃんと恋仲の人、それから蒼汰さんが三人で話し合ってるのが見えた。
揉めているようにも見える。
……修羅場?
少し離れた所にあの黄色と赤の髪の派手な人が様子を窺うように立っているけれど、あの人は何してるのかしら?
その内にその人も加わって、暫くしたら今度は蒼汰さん一人と、残り三人で分かれて別方向で歩き始めた。
無事終わったみたいだ。
何もなくて良かった。
…ドキドキした。
私も行こう。
持ち手をしっかり持って、いざ出発。
ゴロゴロ…と音を鳴らしながら一輪車を押していく。
始めは良かったけど、やっぱりちょっとふらふらするな。
女の子だからと小さめのものにしてもらったんだけど、ちょっと心配になってきた。
小豆のお店はここの通りの一番端にある。
曲がり道もないし、ただ直線を行って帰ってくるだけなのだけれど、少し距離があるのだ。
辿り着けるかな私…
本当は葉月ちゃんと2人で行くはずだったのに。
蒼汰さんめ!
人が足りないからと連れて行ってしまったのだ。
結局一緒に行かない方向になってたみたいだけど。
…もう!
でも葉月ちゃんにとっては良かったのかな。
いいな…
チラッと見えた葉月ちゃんの横顔が、頭から離れない。
とても嬉しそうだった。
…嫉妬じゃないよ?
幸せそうで何よりってことです。
そんな事を考えつつ、少々ふらつきながらもなんとか目的の小豆のお店まで辿り着いた。
「やっと着いたぁ…」
一輪車をゴトンッと置いたら思ったより大きな音がして、中からお店のご主人と奥様が「どうした⁈」と出てきてくれた。
事情を説明すると、
「そうかい!あそこの甘味屋にはいつもお世話になってるよ」
「大変だったわねぇ」
と気遣って下さり、ちょっと休んでいけとお茶までいただいてしまった。
とても温かいご夫婦で、優しさが身に染みた。