第1章 優しい人
数分後に葉月ちゃんが空いたお皿をさげに行ったら、もう全部完食していたらしい。
心配ご無用だった。
おそらく、この時点で午後に出す予定の甘味の材料が無くなっていたんだと思う。
その後定食屋の時間になっても忙しさは変わらず。
ひたすらに、厨房とあの4人組の席を行ったり来たりしていた気がする。
何しろ食べる速度が速いのだ。
くるくると動き回り、定食屋の時間も後僅かで終わる。
そんな時だ。
主人の大絶叫が聞こえてきたのは。
そして今に至るのだけど…
「すまねぇ皆、俺が確認しなかったばっかりに。急だが今日はこれで店を閉める。明日から臨時休業にするから、三日後にまた来てくれ」
そう言ってご主人はまた頭を下げた。
どうして三日後なのだろう。
皆訳がわからず疑問の声が上がる。
「食材が無くなってしまったから調達する時間が必要なの。皆には申し訳ないんだけど、その間お休みでお願いしたいの」
「俺達が責任持って調達に行ってきます。だからその間、申し訳ないですが待っててください!」
女将さんと、二人の一人息子の蒼汰さんも一緒に頭を下げる。
皆どよめいた。
けれども…
「俺も行きます!」
誰かが声を上げた。
それを皮切りに、他の人達も自分が行くと名乗りを上げ始める。
「大将!俺も手伝います!」
「私も!」
「皆で行けば今日中で終わりますよ!」
「そうですよ!自分達だけでなんてそんな水くさいこと言わないでください!」
「皆で行きましょう!」
大変な事にはなってしまったけれど、皆こんな事で怒ったりはしない。
ご主人達だけが大変な思いをする事はないし、こんな時は皆で助け合えばいい。
誰1人文句を言う人はいなかった。
私達の事を一番に考えてくれて、よく気にかけてくれる。
そんな優しいご主人達に恩を返す時が来たのだと思う。
それに私を含め皆、ご主人達が大好きなのだ。
「ありがとう!すまねェ!」とおいおい泣くご主人に皆慰めたり笑ったりしながらこの後の計画を練った。
今日の日没までに戻って来れるよう誰が何処に行くか配置を決め、全員店の外へと出ると、女将さんの指揮の元、皆それぞれの持ち場へと出発したのだった。