第2章 小豆娘
胡蝶は立ち上がると、部屋の中の戸棚まで移動する。
そこを開き何かを探し出すとまた戻って来た。
「こちらの塗り薬ですが」
説明を始めた胡蝶の掌には、丸い蓋の小さめの容器が乗っている。
さっきの戸棚は薬棚だったようだ。
「肌に合わないようでしたら一度診させて頂きたいので、連れてきていただけますか?」
「承知した」
俺は薬を受け取ると、部屋の出口へと向かう。
「忙しい時に悪かった」
「お互い様ですから。お大事にしてくださいね」
「また今度礼をする」
「そんなの気にしないでください。そろそろ行った方がいいんじゃないですか?お相手の方、待ってますよ?きっと」
「そうだな。胡蝶、ありがとう」
お礼を言い、診察室の戸を閉め蝶屋敷の玄関へと向かった。
「義理堅い人ですね、相変わらず。そんなだから……勘違いしそうになるじゃないですか」
胡蝶がそんな事を呟いていたなんて、知りもせずに…。
蝶屋敷から花里のいる店までをまたとぼとぼと歩いている時、ふと気付いてしまった。
…何時に行けばいいのだろうか。
昼食を一緒にとる手筈になっているが、具体的な事を何も決めていなかった。
甘味処から定食屋に切り替わる時に行けばいいと思うのだが、それがいつなのか…。
「行けば分かるか」
独り言ちる。
とりあえず正午頃に行ってみる事にしよう。
しばらく歩くと、昨日花里と小豆を拾った大通りへ出た。
店に行くにはまだ時間がある。
そう言えば、昨日お茶っ葉を買い忘れた事を思い出した。
折角だ、見ていくか。
確かこの近くにあったはずだ。
俺は昨日の記憶を頼りにお茶の葉の店を目指す。
荒物屋に小間物屋、花屋に呉服屋と、ここに来れば何でも揃いそうだ。
色々と眺めながら歩いていると、ある店の前で俺の足は止まる。
履物屋か。
昨日、切れてしまった花里の草履を思い出す。
花里は、新しい草履は買っただろうか。
…
少し見ていくか。
良さそうなものがあれば贈ろうと考えながら、店の前に並べられている履き物を物色。
女性の物は、色々と種類が多いのだな。
蔦子姉さんが買い物する時にあれこれとよく悩んでいたが、こんなにあっては無理もない。
懐かしいなと思っていると、
「義勇さーーーん!!」
空耳…ではない。
遠くから、俺を呼ぶ声が聞こえる。