第2章 小豆娘
次に目が覚めた時には、もう日はすっかり昇っていた。
顔を洗ってから、朝食をとるか迷ったが、時間的にもう遅かったので、午前の日課の鍛練を終えてから外で昼食をとる事にした。
柱になってからは猛烈に忙しく、昼間何もない日は昼近くまで寝てしまうのは良くある事だった。
鍛練を終え支度をしてから寛三郎を肩に乗せる。
家の門を出た所で「マタ後デ来ルカラノウ」と言って寛三郎は飛び立った。
それからよく行く定食屋で昼食をとり、午後は必要な物を調達する目的で、店が並ぶ大通りをぶらぶらと歩いた。
とは言うものの、直ぐに必要なものは今の所ないので、今日はただ見ているだけなのだが。
そう言えば、最近は炭治郎が家へよく来るようになった。
個人的に俺に指導を受けに来たり、我妻と嘴平を連れてただ遊びに来たり。
手土産を持って来てくれる事もあるので、茶を出す機会が増えた。
お茶っ葉の減りが以前より早いのだ。
そうだ、今日はお茶っ葉を買って帰ろう。
丁度茶葉の店が目に入ったので、そこへ寄ってみることにした。
店の前へ差し掛かった時、少し向こうの方で誰かがしゃがみ込む姿が目に入る。
皆歩いているのでその姿だけがやけに目立っていた。
…具合でも悪いのだろうか。
皆一瞥するだけで素通りして行くが、動けないのなら困っているだろうと思い、少し様子を見に行く事にした。
茶葉の店を通り越し、少し行った所で俺は立ち止まる。
よく見てみると…
年頃の娘が、一生懸命何かを拾っている。
…なぜだろうか。
少し気になったので、そばまで行って聞いてみる事にした。
俺の影が視界に入り、顔を上げた娘。
不思議そうに俺を見上げるその娘の前に、膝を着いてしゃがみ込む。
「お前はさっきから何をしている」
気になった事をそのまま聞いてみると、
「小豆…拾ってます…」
見たら分かるだろ、みたいな顔で返された。
小豆だったのか。
よく見たら、確かに小豆だった。
だが何故こんなにもぶち撒けられているのだろう。
辺りを見回すと、小豆の乗った一輪車が置かれているのが確認できた。
「その一輪車に小豆を乗せて運んでたんですけど、倒してしまって。その拍子に袋が破けて小豆が溢れたんです」
…なるほど。
その娘は、俺が気になった事を全て教えてくれた。