第1章 優しい人
冨岡さんも、自分の事を少しだけお話ししてくれた。
自分は鬼殺隊の柱だということ。
自分も家族はもういないということ。
私と同じ、一人で暮らしているということ。
「一人で淋しくないですか?」
「…もう慣れた」
冨岡さんの呟いた“もう慣れた“が、私には少し淋しく聞こえて…
冨岡さんの前に回している腕にぎゅっと力を込めた。
「どうした?」
「…なんでもないです」
「…そうか」
冨岡さんはやめろとも言わず、私のしたいようにさせてくれた。
やっぱり貴方は、優しい人だね
そしてぎゅっとして気付いた。
いや、本当はおんぶしてもらった時から気付いてたんだけど…
細身に見えた冨岡さん。
こうやって触れてみると、意外とがっしりしていて逞しい。
ぎゅっとしたらそれがありありと感じられて…
家に着くまでずっとどきどきしてた。
家の前まで来ると、冨岡さんは私をそっとおろしてくれた。
「今日はたくさんありがとうございました」
「大した事はしていない」
「いっぱいしてくれたじゃないですか!お礼させてください!」
「必要ない」
むうぅ…頑固だ。
食べ物とかはどうかな。
「冨岡さん甘いもの好きですか?」
「嫌いではないが、好き好んで食べるというわけではない」
という事は、うちの甘味をどうぞはあまりよろしくないのか…
「じゃあっ、ご飯!お昼ご飯食べに来てください!」
「ご飯?お前の所は甘味処ではないのか?」
「お昼は定食もあるんです。美味しいですよ?」
「そうなのか」
「はい!私奢ります!」
「男前だな」
男前って言われた!
「そんな事ないと…思ったんですけど…」
「それはさっき言ってたお礼ということか?」
「そのつもりでした…」
冨岡さんは思案顔。
やっぱり女側に奢られるのは嫌かな。
そういうの好きじゃない人多いもんね…
他の案を探そうと考え始めたその時、冨岡さんが口を開いた。
「いつも、食事は一人でとっているが…」
冨岡さんは、どこか遠くを見つめながら
「誰かと食べる食事の方が、美味いのだと言っていた」
昔誰かに言われたのだろうか
その誰かを思い出しているように見えた…