第1章 優しい人
冨岡さんは無言で私を連れて歩いて行く。
どこへ連れて行かれるのかと思ったら、店の入り口に置いてある長椅子に私を座らせた。
「あの…」
「ここで待っていろ」
こくっと私が頷いたのを確認してから、冨岡さんはちょっと離れてその辺にいたうちの店の給仕の子に何かを告げると、「ええっ!」っとその子は大慌てでお店に入って行く。
なんて言ったのかな?
暫くしたらその子は何か箱を持ってきて冨岡さんに手渡した。
受け取った冨岡さんはぺこっと頭を下げて私の方へと帰って来る。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「それ何ですか?」
「救急箱だ」
「え?」
「ここで手当する」
「いいのに!」
小豆も拾ってもらったし、行き帰りの一輪車までお任せしてしまった。
その上手当までしてもらうのは申し訳ないと丁重にお断りしたのだけれど…
「早く手当しないと痕が残るぞ」
という脅し文句のような台詞を吐かれ、右手首をむんずと掴まれる。
そのまま袖をぺろっとめくり、私が何か言う前にもう消毒を塗り始めてしまった。
逃がさないぞと言うことか…
ここまでされたらもうどうにもならないので、されるがままに、お願いする事にした。
「女の子なのだから」
私の腕をちょんちょんと消毒しながら、冨岡さんは静かに言った。
「傷痕が残ったら切ないだろう」
そういうの、気にしてくれるんだ
思わず胸が高鳴った。
まるで自分が大切にされているようで、勘違いしてしまいそうだよ…
消毒が終わり、今度は慣れた手つきで腕に包帯を巻いていく。
…綺麗な顔してるなぁ…
ずっと見てられる
なんならもうずぅっと見ていたい
端正な顔立ちに、思わず見惚れてしまう。
巻かれている間、ぼーっと冨岡さんのお顔を眺めていたら、
「終わったぞ」
「ひゃあ!」
いつの間にか巻き終わったらしく、ぱっと顔を上げた冨岡さん。
ぼーっとしていた私は驚いて変な声を上げてしまう。
「なんだその素っ頓狂な悲鳴は」
「なんでもないです!」
ずっと見てましたなんて言えないよ
恥ずかしい…
冨岡さんは可笑しな私に首を傾げていた。