第1章 1
「宍戸、景吾の行きそうな所、知らない?」
「あ?あー、そうだな…。行くとしたら、屋上かプール裏とかなんじゃねぇか?」
「ありがと」
叶弥はそう言うと、即座にその場から駆け出した。
目指すは、一番可能性の高そうな屋上。
「景吾!!」
力一杯屋上の扉を開け放つと、叶弥はそう叫んだ。
自分の声が屋上一杯に響き渡る。
暫くして、「なんだよ」という気怠そうな声が叶弥の頭上から降って来た。
見上げると、そこには跡部の姿。
「なに、してるのよ」
「あ?何って、寝てたに決まってるじゃねぇか」
「どうして、今日に限って…いつもなら教室にいるじゃない」
「しょうがねぇだろ、お前に会いたく無かったんだからな」
「なっ…、それ、どう言う事?」
「……ったく、お前今悪い方に考えただろ。まぁいい、こっちに来いよ」
跡部はそう言って苦笑すると、ポンポンと自分の隣を叩く。
叶弥は、先程の言葉が腑に落ちないながらも、跡部に逆らえる筈もなくゆっくりと梯子を伝って登ると促されるままに隣へと腰を下ろした。
流れる沈黙。
『会いたく無い』
その言葉が叶弥の胸を締め付ける。
跡部の言葉は、時々痛い。
表現がハッキリしているから、意味合いまでもがグサリと突き刺さる。
そこが跡部らしさと言えばらしさなんだろうけれど…。
そんな事を考えていると、不意にふわりと何かに包まれた。
背後から暖かい感触が触れる。
そこで初めて、自分が跡部に抱き締められている事に気付いた。
突然の事に高鳴る心臓をなんとか落ち着かせようと、叶弥は小さく深呼吸をして跡部に問い掛ける。
なるべく、平静を装って。
「なに、どうしたの?」
「お前、1組の細田って奴、知ってるか?」
求めていたものとは違う言葉に一瞬面食らう。
表情を見ようにも、背後から抱き締められていてはそれも叶わない。
叶弥は一瞬考えるように首を傾げると、あぁと小さく頷いて見せた。
「知ってる、かな。確か同じ委員だったと思う。それがどうかしたの?」
「………そいつが、お前の事を好きなんだとよ」
「…え?」
「いい度胸してるぜ、俺に宣戦布告とはな」
跡部はそう言うと、ククッと小さく笑う。
叶弥は言葉の意図が掴めずにどう言うこと?と首を傾げた。