第10章 気になるあの子
「あれっ、千歳は?」
「保健室ー。頭痛いってよ」
「そういや朝から元気なかったよな」
「俺らが来た時にはもう寝てたじゃん? 軽く揺らしても起きなかったし、かなり具合悪いんじゃねーの?」
四限目が終わり、教室は昼休みの活気で溢れていた。
賑やかな人の流れが教室から食堂に向かって続いており、皆それぞれ昼食を楽しむ準備を整えている。
その中にいつも一緒に昼食を取るはずの結の姿はなかった。
切島は今朝から様子がおかしかった結のことを思い出しながら、上鳴と瀬呂に促されて教室を後にした。
彼らの会話を耳にした者もいたが、クラスメイトたちの談笑に紛れて大きな関心を示す者はいなかった。
だが、教室の最後列に座っていた少年だけは立ち上がった。
彼の動きに気づく者はほとんどおらず、昼休みの喧騒は依然として続いている。
廊下に出ると、指先に浮き出た新しい赤い液体に視線を落とした。
教科書の端で不意に指を切ってしまったのだ。
痛みはほとんどなく、普通ならば気にも留めない程度の傷だったが、それを保健室に向かう口実にすることに決めていた。
舐めて治すという考えが頭をよぎったものの、結が保健室にいることを知り、気にかかっていた。
紅白の髪が微かに揺れ、轟焦凍は冷静な表情のまま保健室の扉の前に立った。
迷いのない手つきで、静かにノックをした。
「はいはい、どうしたんだい」
保健室の静かな空間にリカバリーガールの優しい声が響いた。
彼女は二つ設置されているベッドのうち、片方の閉まりきったカーテンの隙間から顔を覗かせる。
怪我の経緯を伝えられたリカバリーガールは手際よく箱から絆創膏を取り出し、彼に手渡した。
轟はそれ淡々と傷口に貼り付ける。
その動作の間、視線は自然とカーテンの向こうに意識を向けていた。