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お友達から始めよう【ヒロアカ】

第9章 揺蕩う幸福


 窓の外で鳴き止まぬ鴉の声をかき消すように、ビニール袋の擦れる音が部屋に響いた。
 鼻歌まじりに袋を開いたプレゼント・マイク――もとい山田が、弁当や飲み物を次々と机へ並べていく。
 その仕草は軽快で、どこか楽しげだった。


「おい、待て。なんだそれ」
「ンー? これは結ちゃん用」
「またか……」


 相澤の呆れ声もどこ吹く風。
 山田は満足げに微笑み、袋から小さなアイスや菓子を取り出した。
 以前、結が「美味しい」と言った駄菓子も混ざっていて、机の上はさながら小さな屋台のような賑わいを見せる。


「べっつに甘いモン嫌いじゃねーだろ? それに、俺があげたくて買ってきたからいーの。……エ? 相澤も欲しい? 仕方ねェなァ、一つだけな!」
「何も言ってねぇよ」


 冷えた声も意に介さず「ちぇ」と舌を鳴らして再び袋を探る山田に、相澤は深くため息をついた。
 仕事のときとは違い、気楽な服装の山田は、相澤を家まで送り届けた帰りに近所のスーパーへ寄ったらしい。
 差し入れの習慣自体は珍しくないが、毎回のように内容が変わるところに、彼の細やかな気遣いと遊び心が滲んでいた。
 袋から雑多に並べられていく菓子と、合間に差し込まれる鼻歌が、部屋の空気を柔らかく満たしていく。


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