第8章 孤独を満たす
「テメェ、怪我してンのに何外出てんだ」
「え、牛乳、切れちゃったから……」
「水使えや」
「忘れないうちに買っておこうと思って。爆豪くんこそ、どうしてここに?」
「見りゃわかんだろ。ババアに命令された昼飯と晩飯の使い」
おばあちゃんのお使いは手伝うんだ、と結は目を見開く。
驚きが顔に出ていたのか、爆豪は目を細めると露骨に眉を跳ねさせた。
「あ? ちげーよ、母親」
「は、母?」
言葉の意味がすぐには飲み込めず、結は思わず立ち止まった。
その反応に爆豪は苛立ちを隠すことなく、結が手にしていた袋へと無言で手を伸ばす。
有無を言わさずに買った牛乳を取り上げ、そのまま歩き始めた。
「さっさと前歩け」
「えっ、ま、待って! 自分で持てるから……!」
「うるせェ。役に立たねェ手を治してから俺に物言え」
左手で取り返そうと袋を掴むが、それはビクともしなかった。
結は思わず個性を使いかける。
しかし、右手の痛みが脳裏に蘇った。
痛みを悟られるわけにもいかず、仕方なく手を引いた。
「家どっちだ」
「えっと、向こう」
それからの道中、二人の間には必要最低限の言葉だけが行き交った。
スーパーから結の住むアパートまでは少し距離があるが、そこは相澤の自宅でもある。
爆豪に知られてしまうわけにもいかず、結は躊躇いながら道案内をした。
「飲むモン」
「……え?」
「何飲むかって聞いてんだ。さっさと選べ」
突然、立ち止まった先には自動販売機があった。
爆豪の手には炭酸飲料。
すでに小銭が投入されていて、ボタンの光が順々に明滅している。