第9章 揺蕩う幸福
「一人にさせて、悪かった。心配かけたな」
黒髪に対して際立つ白い包帯が相澤の顔を覆い、両腕は三角巾に収まっていた。
その姿が、彼がどれほどの無茶を強いられたかを雄弁に物語っている。
ほんの一日ぶりの再会だというのに、#name#には永遠と感じるほどの長い時間だった。
胸の奥から言葉にならないものが込み上げ、張り詰めていた力が音を立ててほどけていく。
左腕に挟んでいたペットボトルが床に転がり、袋ごと落ちた牛乳はかろうじて無事だった。
「かっこ悪い姿を、見せたくはなかったんだが」
「そんなことないよ。私たちを守ってくれた。化け物にだって立ち向かって……すごく、かっこよかった。怪我だって、一人で、戦って……っ」
敵のただ中へ飛び込んでいった相澤の姿が鮮明に蘇る。
血に濡れ、倒れ伏した姿。
だからこそ、今こうして生きて帰ってきた彼を目の前にすることが、奇跡のように思えた。