第9章 揺蕩う幸福
「……もしかして結ちゃん、相澤にかなーり心開いてる?」
「え、ひざしさんもだけど……」
「聞いたか相澤ァ!? こりゃあ今日は祝杯だなァ!! 酒買って開けちまうか!!」
「結、耳傾けんな。飯食うぞ」
「HAHA! 照れてンのかよォ? しかも食うったってお前、両腕固定してンのにどーやって食――」
山田は相澤に指をさしてケラケラと笑っていたが、相澤の抹消の個性が発動し、大声は突然消え去った。
普段なら相澤と向かい合って座るはずの結は今日に限って山田に席を譲り、相澤の隣に腰を下ろした。
「はい、どうぞ」
温かい弁当の蓋を丁寧に二つ開けると結は迷わず相澤の分を取り、スプーンで掬って彼の口元に差し出した。
穏やかな言い方に相澤は戸惑いの表情を浮かべる。
しかし、結はそんな様子にお構いなく軽く冗談を口にしながらも、優しく「あーん」と促すような仕草を見せた。
「他の方法は……無いか」
「あとはひざしさんに食べさせてもらうしか……あっ」
相澤は顔を引き締め、恥ずかしさを堪えて口を開いた。
そして、目を閉じて静かに咀嚼する。
味わいながらもどこかぎこちない動作だった。
一方、結は相澤の反応に満足したように、嬉しげな表情を浮かべていた。
山田もまた、二人の間に漂う柔らかな空気を察し、何も言わずに再び袋の中身をいじり始めた。