第8章 孤独を満たす
『昔から変わらねェな、結』
「昔って、まだ会って二年も経ってないのに」
『二年も前だろ』
懐かしさを含んだ柔らかな声が鼓膜の奥に残り、結の胸の奥がじんわりと解けていった。
彼の存在が自分の中でどれほど大きいのかを何気ないやり取りで思い知らされ、携帯を持つ手に力がこもる。
『早く寝ろよ。泣き虫』
通話が切れ、画面が暗くなり音も光も失われる。
だが、彼の存在だけは部屋に残っていた。
やがて結は立ち上がり、自室へ戻って鍵をかけた。
必要最低限のものしかないその空間は、女子の部屋にしては寂しく、無機質だった。
いつ個性が暴走するか分からない。
その恐怖が“普通”を少しずつ奪っていった。
壊れてもいいものしか置けない部屋。
そこには、選び抜かれた生活の名残だけが散らばっている。
「……また、一人になっちゃったな」
ぽつりとこぼれた声は、空気に吸い込まれるように消えていく。
いつも隣にいた人が今日はいない。
ただそれだけのことで世界が少し傾いて見えた。
結は布団を頭から被り、涙の熱を閉じ込めたまま目をぎゅっと閉じた。
だが、どれだけ目を瞑っても、不安の波は止むことなく打ち寄せ続け、再び眠ることはできなかった。
夜は静かで、あまりにも長かった。