第8章 孤独を満たす
「あ、家すぐそこだから。ありがとう、爆豪くん」
「おい」
「今度は何……?」
爆豪は袋を持ち直し、手にしていた牛乳を差し出した。
赤い瞳が真っ直ぐ結を射抜いた。
「次、面見せる時までにどうにかしとけよ。寝不足女」
「またあだ名変わってる……」
遠ざかる背中を見送りながら、結は自分の頬に触れた。
朝には気づかなかった顔色の悪さを、彼なりの不器用な言い回しで気づかせてくれたのだと理解し、重たい瞼をこする。
無愛想な優しさの熱が残るまま、結はアパートの階段を上った。
すると、どこからか猫の鳴き声が響く。
見上げれば、黒猫が玄関前に座り、帰りを待っていたかのように尻尾を揺らしていた。
扉の鍵を閉めたはずなのに、開ける音がしない。
不思議に思い、ゆっくり扉を押すと、朝にはなかった見覚えのある靴が一足。
胸が跳ね、結は靴を脱ぐのももどかしくリビングへ駆け込んだ。
「消太さん……っ」
ソファに腰を下ろしていた男の名を呼ぶ。
夢ではないと確かめるように、結は一歩、また一歩と近づいていった。