第2章 本気の裏側
昼前の柔らかな陽射しが校舎の隙間から差し込み、運動場を照らしている。
暖かな春の光は空気に溶け、辺りを包んでいた。
結は体操服に着替えると、そよぐ風に髪を揺らしながら足早に集合場所へ向かった。
すでに何人かの生徒が集まり始めており、その中で数分前に別れたばかりの切島の姿を見つける。
気づけば、結の足は自然と彼の元へと駆け寄っていた。
「あのやる気なさそうな人が先生か……。着替えてグラウンド集合ってことは、走ったりすんのかな?」
「体力テストとかやるのかも。急だよね」
「まだクラスの奴らに自己紹介も済んでねぇのにな。そういや、千歳さっき驚いてたけどよ、先生のこと知ってるのか?」
「え。み、見たことあるヒーローだった、から」
「そっか! あんな見た目でもプロのヒーローなんだよな……?」
二人の視線の先には、生徒たちを見渡す男の姿があった。
両手をポケットに突っ込んだまま、気だるげだが鋭く全体を把握するような視線。
見る者に「ヒーローらしさ」を感じさせない佇まいに、切島の疑念も無理はなかった。
やがて最後の一人が到着し、全員が一か所に集まる。
ざわつきながらも張り詰めた空気が漂う中、相澤は風を切るような静けさで口を開いた。
「今から個性把握テストを始める」
「個性把握テストォ!?」
「入学式は!? ガイダンスは!?」
「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事出る時間ないよ」
唐突な言葉に、生徒たちの間から驚きの声が弾ける。
ひときわ大きな声を上げた麗日は戸惑いを露わにするが、相澤の返しは冷静で突き放すように現実的だった。
そんな一言が、生徒たちの中にあった甘い期待を確実に打ち砕いていく。