第2章 本気の裏側
ざわめきが残る中、相澤はテストの概要を手短に説明した。
続けて、実技試験で首位だった爆豪に、中学時代のソフトボール投げの記録を尋ねて「個性を使って思い切りやってみろ」と球を投げ渡した。
爆豪は片手でそれを受け取ると、不敵に笑う。
軽く肩を回し、白線の前へ進む。
低く構えると、腕を大きく振りかぶった。
「死ねえ!!」
炸裂音とともに球が空へ飛び出す。
火花が弧を描き、爆発音が遠ざかると、やがて球は空の彼方へ消えた。
吹き抜けた爆風に、生徒たちは思わず目を細める。
驚きや羨望が入り混じり、空気は一層張りつめた。
ただ一人、結だけは違った。
爆豪の背を見つめながら、派手で強烈な個性の使い道を考えている。
その視線に気づく者は、誰一人いなかった。
「まず自分の最大限を知る。それが、ヒーローの素地を形成する合理的手段」
淡々とした相澤の言葉に圧はないが重みがあった。
彼の手に収まる端末に「705メートル」の数字が光を放って表示される。
その眩しさに生徒たちの目が思わず見開かれた。
「なんだこれ! すげー面白そう!」
「705メートルってマジかよ」
「個性思いっきり使えるんだ! さすがヒーロー科!」
次々と上がる声には驚きと興奮が混ざり合っている。
その熱気に押されながらも、結の耳にふと低い声が引っかかった。
「……面白そう、か」
浮き立つ空気には不釣り合いな、乾いた独り言だった。
冷たい小石が水面に落ちるように、周囲へ違和感を落とす。
反射的に振り返った結の視線の先には、前髪で目元を隠した相澤が立っていた。
無表情の顔からは感情の色が読み取れない。
だが、言葉の冷たさは、結の胸にひやりとした影を落とした。