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お友達から始めよう【ヒロアカ】

第8章 孤独を満たす


 ふと、一番上のトークを開く。
 “友達”の名前が表示されたまま、指が受話器のアイコンに触れた。
 無機質な呼び出し音が、しんとした部屋に響いた。


『――夜は電話しねェとか言ってただろ』


 呼び出し音が止み、耳に馴染んだ声が流れた。
 皮肉を含んだ声音と、遠くを走る車の音がかすかに混じる。
 深夜の空気を割って届く声に、張りつめていた胸の奥が少しだけ緩んだ。


「……ごめん、声が聞きたくなって。寝てた? 忙しい……?」
『別に』
「少しでいいから、話していたくて」
『直接会えばいいだろ。今どこにいる?』
「家、だけど……出られないから、会えない」
『は?』


 不機嫌な声の向こうで、彼が足を止めた気配がする。
 その気配だけで、彼が本当に心配していることが伝わった。


『監禁されてんのか?』
「ちがうよ、こんな時間に外に行けないし……色々あった、から」
『なんだそれ。待ち合わせ場所決めとけ』
「今日はいい……」
『会いたくねェの?』
「会いたいけど……今日はいや」


 時計を見ると、針は一時を回っていた。
 学生が外を歩くにはあまりにも遅い時間だった。


『はあ? ンな声で何言ってんだ。また嫌がらせか? 合わねぇなら学校なんか辞めろ』
「ううん、学校が嫌なわけじゃなくて……」
『そうやって毎度べそかくんだろ、お前』
「かいてないし、かかない」
『ってことは泣いたのか? ガキだな』


 鼻で笑う気配に、結は思わず唇を尖らせた。
 彼にはどんな嘘も通じない。
 小さな隠しごとさえも見抜かれてしまう。
 だからこそ、今は反論もできず、黙るしかなかった。


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