第8章 孤独を満たす
「…………っは」
肺が焼けつくほどの息苦しさに襲われ、結は跳ね起きた。
深い水底から無理やり水面へ押し上げられたように、必死で酸素を求めて空気を吸い込む。
だが、勢いが強すぎて喉を傷め、激しい咳が込み上げた。
その音に反応して、部屋のあちこちで物が崩れ落ちる音が続く。
雑誌、リモコン、リュックサック、倒れたゴミ箱や椅子。
目に映るものすべてが無造作に散乱していた。
陶器のような壊れ物こそなかったが、人の暮らす部屋とは思えない有様だった。
相澤と暮らし始めてから、この現象は減っていた。
それでも、心身が限界を迎えた夜には、眠っている間に個性が暴走してしまう。
物が浮き、そして落ちる。
今夜もまた、その繰り返しだった。
重い身体を支えながら立ち上がり、ふらつく足で明かりをつけると、荒れ果てた部屋が一気に現実味を帯びた。
結は散乱した物を一つずつ拾い上げ、元の場所へ戻していく。
リュックを持ち上げたとき、中にしまっていた携帯が淡く光った。
胸の奥でかすかな期待が膨らみ、画面を覗き込む。
だが、表示されたのは「通知はありません」の冷たい文字だけ。
無意識にメッセージアプリを開いたが、一覧に新しい言葉はどこにもなかった。