第15章 弱さに宿る力
ホームルームで告げられたのは、明日と明後日の休校、休み明けには職場体験の指名が発表されるということだった。
短く簡潔な連絡だったが、それを聞く生徒たちの表情には隠しきれない疲労の色が滲んでいる。
一つの席を除いて埋まっていた椅子はホームルームが終わると次々に空いていった。
授業終わりに交わされる軽い雑談も、今日は少なく聞こえた。
結は荷物をまとめながら背もたれに深く体を預ける。
じんわりと体の力が抜けて、重力に縛られたかのように足が動かない。
本能が「もう少し休め」と告げている気がした。
「帰らないのか?」
「もう少し、休んでから帰ろうかなって……」
「そうか」
不意にかけられた声に結は顔を上げる。
気配を感じなかったが、相澤はいつの間にかすぐそばにいた。
両腕を包む捕縛布と同じ白色が黒い服装に際立ち、浮いて見えた。
「マイクに飲みに誘われたから帰り遅くなる。適当に飯食っててくれ」
「……上鳴くんたちいるのに、聞かれちゃうよ?」
「いつの話してんだ、もう誰もいないぞ」
「えっ」
こうした会話の一つにも周囲へ気を配るはずだが、今の相澤は妙に無防備だった。
その両手でどうやって飲むのだろうかと、ふと浮かんだ疑問もすぐに解決される。
慌てて見回した教室には確かに誰の姿もない。
ついさっきまで聞こえていたはずの雑談も足音も消えていた。
「校門まで送る。支度できてるか?」
「うん、できてるよ」
「それから、明日は昼過ぎに帰る。予定空けといてくれ」
「わ、わかった」
結は頷きながら、胸の奥に小さな棘が刺さるような違和感を覚えた。
いつもなら右手の様子を気にするはずなのに。
怪我について何か聞くはずなのに。
相澤はそれを一切口にしなかった。
教室を出る準備は整っていたが、なぜか立ち上がるのに時間がかかった。
相澤の隣へと歩み寄るが、距離は近いはずなのに遠く感じた。
今は見えない境界線が引かれたように、互いの心に一定の距離が生まれていた。