第8章 孤独を満たす
「十八、十九……重症の二人を除いて、ほぼ全員無事か」
刑事の塚内直正は生徒たちの点呼を終えると、静かに息をついた。
この場に残っている十九人の中に、結と緑谷の姿はない。
緑谷は個性の反動で両脚を折り、先に保健室へ運び込まれていた。
簡潔な説明を終えると、塚内は部下に生徒たちを教室へ戻すよう指示し、自身は警察車両の助手席へ身を滑り込ませた。
後部座席へ目を向け、穏やかに声をかける。
「体調はどうかな? 結くん」
「さっきよりは、良くなった気がします」
震えの残る声に、塚内は柔らかく頷いた。
ブランケットに包まれた結の肩はまだ小刻みに揺れていたが、呼吸はようやく落ち着き始めていた。
「よかった。顔色が真っ青だったから、立っているのも辛かっただろう」
その声音はどこまでも優しく、結は答える代わりに浅く頷いた。
言葉を紡ぐ余裕はなく、静かな空気に身を預けるしかなかった。
「待たせたね。そろそろ雄英に向かおうか」
「……ごめんなさい。我儘言って」
「我儘なんて思わないさ。知らない人ばかりの場所じゃ、誰だって不安になる」
本来なら緑谷を追って保健室へ向かう予定だった。
だが、結には塚内以外の警官との面識がなく、今の自分を委ねることができなかった。
そのため、彼が戻るまで車内で待ち続けていた。
塚内は結にとって、数少ない安心して頼れる大人だ。
雄英入学前から何かと寄り添い、相澤のもとで暮らせるように話を取り持ったのも彼だった。
合図ひとつで運転手が乗り込み、車が発進する。
陽の光が窓越しに差し込み、車内を照らした。