第7章 酷悪
「さっき化け物に触ったとき、痛そうにしてたよね? 怪我をしたんじゃ――」
「怪我してるからって、助けない理由にはならないよ……急いで、運ばないと……」
「君の個性なら早く運べるだろうけど、今は僕たちを頼ってくれないかな……?」
彼の言葉には真剣さと優しさが滲んでいる。
だが、結の心は自分の力で守らなければ、という強い使命感が理性を押しつぶそうとしていた。
視線はずっと相澤から離れない。
「私は緑谷ちゃんに賛成よ。こんな状況だもの。いつまた敵に攻撃されるかわからないわ。相澤先生を心配する気持ちは同じだけれど、無理をしないで結ちゃん」
「お、オイラも! オイラも手伝うぞ!」
蛙水と峰田の声が重なり、結の胸に染み込んでいく。
暗い室内に差し込んだ、温かい光のようだった。
「緑谷くん、蛙水さん、峰田くん……」
「ケロ。梅雨ちゃんと呼んで」
蛙水は結の右手をそっと両手で包み込み「お水みたいに冷たいわね」と微笑む。
冷えきった指先は、もはや感覚さえも失っていた。
運ばれていく相澤の姿を見つめながら、結はその場に立ち尽くした。
心のどこかが強く痛む。
それは右手の痛みが原因ではなく、自分の無力さが突き刺す、鈍く深い痛みだった。
「――ごめんよ、皆。すぐ動ける者をかき集めてきた」
長い階段を上った先で、重く閉ざされた扉がゆっくりと音を立てて開かれる。
雄英高校の校長、根津の姿が現れると、後に続いて教師陣やプロヒーローたちが施設内へと雪崩れ込んできた。