第7章 酷悪
「私、また間違えたのかな? どうすればよかった? やっぱり、君が言ってた通りに、していれば……っ」
「……おい」
「君は、君だけは、見捨てないでくれるよね……? もう、また、一人になんて……」
「な、に言ってんだ」
口にされる言葉の端々が、他の誰かを求めていると、爆豪にはわかった。
自分ではない誰かを重ね、必死にしがみついていることが伝わる。
咄嗟に爆豪は結の肩を掴み、力強く押し離した。
結ははっと目を見開き、ようやく爆豪の姿を認識すると、込み上げる吐き気に喉を押さえた。
思考がもつれ、心も体も鈍くなる中で、自分の錯乱した行動を少しずつ理解していく。
「……ご、ごめん。忘れて」
やっと紡いだ言葉は、乾いた風に消えかけていた。
結はゆっくり背を向け、爆豪から離れていく。
足取りは重く、冷たさが爪先から背中まで這い上がる。
残された爆豪は動くこともできず、その背中を見つめ続けていた。
「ワケのわからねェことばっかしやがって……」
独り言のように吐き捨てるが、胸に残った鈍い痛みは消えなかった。
結の泣き顔と、あの無謀な飛び降りの瞬間が鮮明に心に刻まれている。
怒ることも責めることもできず、爆豪はただ立ち尽くしていた。