第7章 酷悪
「攻撃が……! どうして……っ、うわああ!?」
「緑谷くん……!」
脳無が戸惑う緑谷の腕を掴み、骨が軋む音が微かに響いた。
一方で、何もなかったかのような涼しい顔で、敵の男が再び結に手を伸ばした。
結は意識を手放した相澤の前に立ちふさがり、左手を強引に向ける。
攻撃を防ぐ策はなかった。
運命の中に仕込まれた罰のように、現実は残酷だった。
誰もが若くして、死を覚悟していた。
「――もう大丈夫。私が来た」
突如、建物に響いた言葉は、闇に沈みかけていた心に差し込む光のようだった。
声が遠くから届くと、生徒たちの胸に張り詰めていた恐怖がわずかに緩む。
絶望の淵に立たされていた彼らの視界に、静かな怒りを纏ったオールマイトの姿が映った。
通信が遮断された中、雄英まで走り抜け、助けを呼んだ飯田の行動が希望の糸を繋いだ。
今この場に、平和の象徴が立っている。
それだけで、勝利を確信した錯覚に陥った。
「あーあ……コンテニューだ」
敵の男が結に手を向けたまま、口を歪めて呟く。
すべての視線はオールマイトに吸い寄せられていた。
普段は戦いの最中でも崩れない穏やかな笑顔は、今は消え、鋭く冷たい怒りが空気を揺らしていた。
次の瞬間、突風が吹き荒れる。
瞬きする間もなく、結と相澤は敵の懐から引き離され、安全な場所へと運ばれていた。
傍らには緑谷、蛙水、そして峰田の姿。
誰もが放心し、状況を理解しようと必死だった。
地面には男が持っていた奇妙な装飾が転がっている。
彼は一撃を受けたのか、よろめきながら手を庇っていた。