第7章 酷悪
「……本っ当かっこいいぜ、イレイザーヘッド」
何が起きたのか理解するより早く、男の嘲る声が耳を打つ。
結の背後では、意識が朦朧とする中でもなお、相澤が個性を発動していた。
瀕死の身体を無理に動かし、力を振り絞って結を守っていた。
咄嗟に結は左手を持ち上げ、男へと向ける。
その瞬間、耳をつんざくほどの破裂音と、何かが飛び出す音が同時に届いた。
影が一つ、水辺から勢いよく駆け上がった。
「手、放せぇ!!」
緑谷は叫びながら全身に力を込め、拳を固く握りしめて男に飛びかかった。
拳は空を裂き、導線のように男の体を貫く。
風が巻き起こり、水飛沫が舞った。
水辺には蛙水と、峰田実の姿もあった。
誰かが助けに来てくれると信じることすら諦めていた結は、思わず目を見開き、瞬きを繰り返した。
「君もいい動きをするなあ……スマッシュって、オールマイトのフォロワーかい?」
脳無に致命傷を負わせ、敵の男も倒したと、結たちが安心できたのはほんのわずかの間だった。
殴り飛ばしたはずの男の前に、脳無が立ち上がっていた。
肉は塞がり、血は止まり、巨体は無傷の姿で現れる。